研究概要 |
がん細胞は, 原発部位から一連の複雑な段階を経て転移に至るが, 律速段階である細胞移動と転移巣形成に関わるmicroRNAを中心とした微小分子の挙動は不明な点が多い. がん細胞の転移能は, その細胞表面分子と隣り合う細胞や細胞外基質を含む微小環境との相互作 用に依存しているため, 細胞接着分子の発現変化をはじめ複数の遺伝子が原発腫瘍の増殖や転移に関連するものとして明らかになってきている. 本研究では, 特に細胞接着因子であるDermatopontinに着目し, その発現に関わるmicroRNAを用いた癌の転移制御を目的とした. 口腔がんは, in vitroおよびin vivoでDrmatopontinの発現が有意に低下し, その発現と接着/転移能に相関があることを示してきた. 本年度は, 定常状態の口腔がん由来細胞株と, その対照となる正常ヒト表皮ケラチノサイト, HaCaTのmicroRNAの発現比較を行った. 口腔がん由来細胞株はSAT,KON,HO-1-u-1,SAS,SCC-4の5種を, コントロールとしてHaCaTを用いてmicroRNAを含むtotalRNAを抽出, 逆転写し, 種々のがんで発現異常の報告されている主要なmicroRNAについて網羅的な発現解析を行った. その結果, 口腔がん細胞株で有意に発現変化のあるmicroRNAを数種類絞り込んだ. これと並行して口腔がん由来細胞株に対し, レトロウィルスベクターを用いたDrmatopontinの強制発現細胞株を作製し, データーベース上でDPTの発現に関与していることが示唆されるmicroRNAを用いて細胞株にトランスフェクションし, 発現確認を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口腔がん細胞株でのmicroRNAの網羅的な発現解析によって, 数種類の有意に発現変化のあるmicro RNAが確認された. 現在, レトロウィルスベクターを用いて, Drmatopontinの発現に関わるmicroRNAの検証のため, その強制発現口腔がん細胞株を作製中である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, 口腔がん由来細胞株においてDrmatopontinの強制発現細胞株(高接着能/ 低転移能)を作製し, その発現に関わるmicroRNAの検索を行うが, 前年度に行った網羅的な口腔がん由来細胞株のmicroRNAの解析結果からその候補を絞り込む. また近年, 遊離microRNAとして, その生物学的重要性が認識されつつある液性中のmicroRNAについて, Drmatopontinの発現との関連性を検討している. すなわち, 培養液中には, エクソサイトーシスによって放出されるmicroRNAが存在し, オートクラインまたはパラクライン様の作用によって細胞に取り込まれ, 作用を及ぼしていることが示唆されている. したがって液性中のmicroRNAにも候補を広げ, 検証を試みる.
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