血管形成メカニズムの解明は生理的血管発生の理解や病的血管新生の治療方法の確立につながる重要な課題である。フォークヘッド型転写因子Foxo1の欠損マウスは血管形成不全により胎生致死となる、この表現系から、Foxo1は血管形成の必須因子であることが示された。しかしFoxo1が血管形成をどのような分子メカニズムで調節するのかは明らかではなかった。そこで私は、マウスES細胞の試験管内分化系による血管形成モデルを用いて、Foxo1の役割を検討した。野生型の血管内皮細胞は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の刺激によって、伸長した血管様構造を形成する【血管新生】。一方、Foxo1欠損血管内皮細胞では血管様構造は見られず、異常な形態を示す。未分化ES細胞から血管内皮細胞への分化はFoxo1を欠損した場合でも正常である。よってFoxo1は、血管内皮細胞の分化過程ではなく、血管構造の形成過程に働くと考えられる。さらに、野生型では血管内皮細胞と血管壁細胞が結合する【血管成熟】の過程が見られるが、Foxo1欠損細胞ではこの過程が見られない。【血管新生】と【血管成熟】の2つの過程でのFoxo1の機能の詳細を明らかにするために、野生型とFoxo1欠損血管内皮細胞について、遺伝子発現の網羅的解析を行い、発現変化のあった遺伝子について伸張機能の回復を検討した。その結果、Foxo1の標的遺伝子の候補として、タンパク質ホスファターゼ1結合タンパク質のあるサブタイプを見いだした。さらに、野生型とFoxo1欠損細胞の混合培養、また血管内皮細胞特異的にFoxo1を発現するES細胞の解析によって、【血管成熟】の過程において、Foxo1が主に血管内皮細胞で必要とされていることを見いだした。
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