前年度の知見をもとに解析を続けたところ、本研究期間中に以下のような知見が得られた。 まず、Cylindromatosis (CYLD)タンパク質は口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞においてI型TGFβ受容体(ALK5)のSMURF2依存的な分解を促進することで、TGFβシグナリングを抑制することが明らかとなった。そのようなALK5の分解は、リソソームとプロテアソーム両方を介して行われていた。逆に、CYLDの発現抑制はALK5の安定化を介してTGFβシグナリングを促進し、運動能を亢進させた。これはCYLD発現低下がヒトOSCC組織の浸潤領域において発現低下しているという自身の知見と一致する。また、OSCCにおけるCYLD発現は不良な生命予後とともに、TGFβシグナリングの活性において重要なSmad3のリン酸化程度と有意に逆相関していた。 一方、CYLD発現抑制は、in vitroにおいてOSCC細胞の長期的な静止状態を誘導した。網羅的発現解析(GSEA)により、CYLD低下時の遺伝子発現プロファイルは、造血幹細胞の静止期におけるそれに非常に類似していることや、S期進行に必須である転写因子E2F1の標的遺伝子が膨大に低下していることが確認された。さらに、過去の報告と一致して、G0期維持に関連するタンパク質発現変動も認められている。 今後、CYLD結合タンパク質の網羅的解析などを通じて、上記知見に重要な分子機構の解析を継続する。
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