MUC1やMUC4は、細胞表面を保護する「粘液」の主成分である「膜型ムチン」に分類され、多くのヒト悪性腫瘍に過剰発現し、腫瘍の浸潤・転移に促進的に働く重要な予後不良因子として広く知られている。しかし今日に至るまで、口腔扁平上皮癌におけるその予後因子としての有用性はいまだ不明である。よって本研究の第一の目的は、口腔扁平上皮癌におけるMUC1およびMUC4の発現を検索し、その予後因子としての有用性を検討することである。われわれはまず、口腔癌症例の組織を用いてMUC1およびMUC4ムチンの発現を検索し、臨床病理学的事項との関連性を検討し、ムチン発現が口腔扁平上皮癌の予後予測因子になりうるか200例以上の切除組織を用いて詳細に検討した。その結果、MUC1およびMUC4の過剰発現は、口腔扁平上皮癌の新しい有意な予後予測因子であることを明らかにした(Int J Cancer. 2012. 130:1768-76.、Cancer. 2012. 118: 5251-64.)。 次に、本研究の第二の目的は、口腔癌において、スプライシングやエピジェネティック調節などの膜型ムチンの発現調節機構を口腔含嗽液を用いて高感度に検出する方法を確立し、口腔癌の早期発見や発癌リスクの予測に役立てることである。そこでわれわれの研究グループは、少量の含嗽液を用いて遺伝子発現、DNAプロモータの異常メチル化、ヒストン蛋白の修飾を検出するプロトコルを作成し(Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2012. 70: 1486-94.)、口腔癌症例に特異的な遺伝子異常メチル化群を同定することに成功した(Cancer. 2012. 118: 4298-308.)。今後は症例数を増やしたのち統計解析を行い、口腔癌の予後不良因子である膜型ムチンの選択的スプライシングやエピゲノム異常のうち、直接的に予後に関連し治療の標的となりうるものを見いだしていく予定である。
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