24年度は、患者から採取した治療後の顎関節洗浄液から作製したcell block tissue array 標本の病理所見を臨床所見と比較した。その結果、44検体中22例で炎症性細胞を中心とした種々の細胞成分が検出され、炎症を中心とした詳細な病態把握や初期の滑膜軟骨腫症との鑑別が可能であった。画像所見で骨吸収像を認め、変形性関節症もしくは骨リモデリングが疑われた患者では、病理所見でも免疫染色により単球系細胞(破骨細胞など)の存在を確認することたできた。また、臨床所見が同様であっても患者ごとに病理所見が異なる症例があることも分かった。 一方で、細胞成分が検出されなかった症例では手技的な問題による偽陰性が含まれている可能性も考えられた。そこで25年度は、検査精度を向上させるために洗浄液中の細胞成分に加えて液体成分中のタンパク成分も同時に分析する方法を検討した。この検討にはより多くの検体数を短期間で集めることができる嚢胞内容液を用いた(岩手医科大学倫理委員会承認番号01201)。 種々の条件下で検討した結果、採取後すぐに検体を遠心分離にかけ、細胞成分のみ固定し、液体成分にはprotein inhibitorを添加してタンパク分解を抑えた。液体成分の分析にはELISA法を用い、診断に有用なタンパクとしてmatrix metalloprotease 8(急性炎症)、IL-6(慢性炎症)、IL-1β(慢性炎症)の検出を行った。液体成分の粘度が高い場合はある程度までPBSで希釈しても検出可能であることを確認した。今後は実際の関節洗浄液を用い、より精度の高い検査システムを確立していく。 洗浄液中に含まれる滑膜細胞の初代培養も行ったが、株化には至らなかった。洗浄液中の細胞傷害性を有するタンパク成分が原因と考えられた。今後は洗浄液の採取後すぐに細胞成分を分離し、効率的な培養方法を検討していく。
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