研究課題/領域番号 |
24792257
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小柳 裕子 日本大学, 歯学部, 助教 (20609771)
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キーワード | プロポフォール / GABA(A)受容体 / 大脳皮質 / 抑制性シナプス後電流 / ホールセル・パッチクランプ法 |
研究概要 |
Propofolは,調節性に優れた静脈麻酔薬であり,全身麻酔の導入・維持や歯科治療時の静脈内鎮静法に頻用されている。これまでに,propofolはGABA(A)受容体に作用し,抑制性シナプス伝達効率を増加させることにより,その鎮静効果を発揮することが知られている。一方,大脳皮質は,興奮性細胞である錐体細胞と十数種類の抑制性介在ニューロンで構成されており,さらに,抑制性介在ニューロンの種類によりGABA(A)受容体のサブタイプの構成が異なることが報告されている。このことから,propofolの効果は,ターゲットとなるニューロンの種類により異なる可能性が考えられる。そこで本研究は,大脳皮質において,シナプス結合を有する複数のニューロンから同時ホールセル記録を行い,抑制性シナプス伝達に対するpropofolの効果について,ニューロンの組み合わせに着目し,単一シナプス応答性抑制性シナプス後電流(uIPSC)の解析を行ない,以下の結果を得た。 ①Propofolは,シナプス後細胞のGABAA受容体に作用し,抑制性介在ニューロンであるfast-spiking細胞(FS)ならびにnon-FSよりも錐体細胞を強く抑制した。 ②Propofolは大脳皮質において,抑制性シナプスのうち,シナプス前細胞がFS,シナプス後細胞が錐体細胞のシナプスに対して最も強く作用した。 ③Propofolは,大脳皮質のFS-FSの電気的シナプスに対して調節作用を示さなかった。 以上の結果から,propofolは,抑制性介在ニューロンと比較して錐体細胞を強く抑制することにより,皮質からのoutputを抑制する事でその鎮静作用を発揮している可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的であった,uIPSCに対するpropofolの修飾作用について,シナプス前細胞および後細胞の種類を同定して,網羅的に解明することができた。これまでに得た結果は,国際雑誌である「Anesthesiology」での掲載が決定している。さらに,これまでに得られたpropofolの抑制性シナプス伝達増強作用が,結果として大脳皮質ニューロンの活動性にどのような影響を及ぼすことで,その麻酔薬としての作用を発揮するのかについて,ホールセル・パッチクランプ法を用いて,同一の抑制性介在ニューロンから投射を受ける2つ以上の錐体細胞の発火タイミングに対するpropofolの影響について検討を行う準備を始めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られたpropofolの抑制性シナプス伝達増強作用が,結果として大脳皮質ニューロンの活動性にどのような影響を及ぼすことで,その麻酔薬としての作用を発揮するのかについてはいまだ不明である。Propofolは,脳波を覚醒時の低振幅速波から高振幅・徐波化させ,アルファ周波数帯を増強することで意識消失をひき起こす可能性が近年になって複数示された(Feshchenko et al., 2004; Ching et al., 2010; Andrada et al., 2012)。脳波は大脳皮質における錐体細胞の活動性を反映していると考えられていることから,propofolは,錐体細胞に対する抑制性シナプス伝達を増強することで,錐体細胞の発火タイミングを調節している,という仮説が考えられる。この仮説を証明するために,今後は,ホールセル・パッチクランプ法を用いて,同一の抑制性介在ニューロンから投射を受ける2つ以上の錐体細胞の発火タイミングに対するpropofolの影響を検討する。
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