研究実績の概要 |
本研究は,大脳皮質において,シナプス結合を有する複数のニューロンから同時ホールセル記録を行い,抑制性シナプス伝達に対する静脈麻酔薬propofolの効果について,ニューロンの組み合わせに着目し,単一シナプス応答性抑制性シナプス後電流(uIPSC)の解析を行ない,以下の結果を得た。 1,propofolは,シナプス後細胞のGABA(A)受容体に作用し,抑制性介在ニューロンであるfast-spiking細胞(FS)ならびにnon-FSよりも錐体細胞を強く抑制した。 2,propofolは大脳皮質において,抑制性シナプスのうち,シナプス前細胞がFS,シナプス後細胞が錐体細胞のシナプスに対して最も強く作用した。 Propofolは,脳波を覚醒時の低振幅速波から高振幅・徐波化させ,アルファ周波数帯を増強することで意識消失をひき起こす可能性が近年になって複数示された(Feshchenko et al., 2004; Ching et al., 2010; Andrada et al., 2012)。脳波は大脳皮質における錐体細胞の活動性を反映していると考えられていることから,propofolは,錐体細胞に対する抑制性シナプス伝達を増強することで,錐体細胞の発火タイミングを調節し,結果としてアルファ周波数帯を増強することで意識消失をひき起こす,という仮説が考えられる。この仮説を証明するために,ホールセル・パッチクランプ法を用いて,同一の抑制性介在ニューロンから投射を受ける2つ以上の錐体細胞の発火タイミングに対するpropofolの影響を検討した。その結果,propofol適用により,シナプス後細胞に相当する錐体細胞は,シナプス前細胞であるFSからの抑制性入力を受けることで同期性発火を示すことを見出した。この成果は,国際学会である第9回麻酔と意識国際シンポジウムでポスター発表を行った。
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