研究概要 |
<研究の目的> 申請者らの樹立したヒト正常舌角化細胞を用いた口腔がんのin vitro多段階発がんモデルを利用し、口腔がん幹細胞の成立・維持機構の解析を目指す。 <研究実績の概要> 申請者らはヒト正常舌角化細胞に口腔がんへの関与が報告されているがん遺伝子を導入することにより口腔がんの多段階発がんモデルを確立した(Am J Cancer Res 1(7):869-881, 2011)。樹立した細胞株の中にヌードマウスの舌に同所性移植したところ約3週間で腫瘍形成し、頸部に転移を認めたものがあり、同じ細胞株をヌードマウスの皮下に1000個の細胞を移植すると短期間で腫瘍を形成した。予備的な実験であるが、がん幹細胞様細胞を高率に含む細胞集団であると捉えている。この正常親細胞からがん幹細胞様細胞株への移行はDominant Negative p53, cyclinD1/Cdk4などを用いてp53及びpRbを不活化後、2つのがん遺伝子の導入により成功している。これらの細胞の親細胞はhTERTで延命したヒト正常舌角化細胞であり、PD(population doubling)100でもほぼ正常な染色体像、分化能を示す。このモデルはヒト口腔扁平上皮がんで見つかる異常とがん化・がん形質の維持における意義を明らかにする上で重要な役割を果たすと考えられる 。 申請時の実験計画ではこれらの細胞の1, 分化能 (分化誘導条件下における分化マーカーの発現誘導)、2, 足場非依存性増殖能 (agar colony assay)、3, 自己複製能 (clonogenic assay)、4, SP(side population)細胞分画の割合の検討等を行い、がん幹細胞様細胞の有無を検討する予定であった。1,2, に関して仮説に沿った実験結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは初代舌正常角化細胞にhTERTおよびDominant Negative p53, cyclinD1/Cdk4などを用いてp53及びpRbを不活化後、2つのがん遺伝子の導入により人工の口腔がん細胞を樹立した。樹立した細胞株の中に(1)ヌードマウスの舌に同所性移植すると約3週間で腫瘍形成し、頸部に転移を認めた。(2)1000個の細胞移植でヌードマウスの皮下に短期間で腫瘍を形成した。以上の2点からがん幹細胞様細胞を高率に含む集団であると考えている。申請時の実験計画ではこれらの細胞の 1, 分化能 (分化誘導条件下における分化マーカーの発現誘導)、2, 足場非依存性増殖能 (agar colony assay)、3, 自己複製能 (clonogenic assay)、4, SP(side population)細胞分画の割合の検討等を行い、がん幹細胞様細胞を検討する予定であった。1, 2,に関して仮説に沿った実験結果を得た。具体的に説明すると、樹立した細胞のinvolcurin(分化マーカー)の蛋白質発現レベルをウェスタンブロッティング法で比較した。Epilife, DMEM培地などCa濃度の違う条件で培養することによりHras,とcMyc Dominant Negative p53の3つの遺伝子を導入する組み合わせがもっとも強い分化抵抗性を示し、これらが足場非依存性の増殖能、著しい造腫瘍能の獲得、がん幹細胞様細胞の維持と相関していた。平成24年度内に1~3の実験に着手し、1,2,までの実験結果の一部を平成24年度の国内、国際学会、雑誌論文で研究成果を発表した。研究目的にある口腔がん幹細胞の成立・維持機構の解析を、ヒト正常舌角化細胞を用いて進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らはこれまでに初代舌正常角化細胞にhTERTおよびDominant Negative p53, cyclinD1/Cdk4などを用いてp53及びpRbを不活化後、2つのがん遺伝子の導入により口腔がん幹細胞様細胞を樹立した。樹立した細胞のなかに1000個の細胞移植でヌードマウスの皮下に短期間で腫瘍を形成したものがあった。limiting dilution assayにより100個,10個の細胞でヌードマウス舌・皮下で腫瘍を形成するかなど更なる検討を進める。 申請時の実験計画ではこれらの細胞の1, 分化能 (分化誘導条件下における分化マーカーの発現誘導)、2, 足場非依存性増殖能 (agar colony assay)、3, 自己複製能(clonogenic assay)、4, SP(side population)細胞分画の割合の検討等を行い、がん幹細胞様細胞の有無を検討する予定であった。 平成25年度は3,4,の解析の確認実験に加えて、下記の実験を継続する予定である。5, 口腔がん幹細胞モデルと口腔がん細胞株、臨床検体との比較:cDNAマイクロアレイ、リアルタイムPCR解析によりヒト舌正常角化細胞由来の口腔がん幹細胞、既存の口腔癌細胞株であるHSC2,3, OSC-19などを用いてがん幹細胞性の発現・維持に関与する遺伝子の異同を検討し、がん幹細胞作成に決定的な遺伝子の特定を試みる。6, がん幹細胞のニッチの検討: 新生血管および間質の形成阻害(がん幹細胞のニッチの形成阻害)によりがん幹細胞の造腫瘍性が抑制されるかを検討する。7, 口腔がん幹細胞モデルにおけるがん幹細胞マーカーの検討:口腔がん幹細胞のマーカーとしてALDH1, CD44, CD133などがあげられるが、口腔がん幹細胞モデルにおけるそれらの発現を検討する。
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