研究概要 |
矯正歯科治療中に生じる問題として避けることができないのが歯根吸収である。歯根吸収にはセメント質に限局するものと、その吸収が象牙質まで進行するものがある。後者まで進むと修復は生じにくく、歯の正常な機能を維持することが困難となる。一方アメロブラスチンはエナメル芽細胞より分泌されるエナメル蛋白で、歯の硬組織形成に関与している。しかしアメロブラスチンはそれ以外に様々な機能を有していることが明らかとなってきており、そのひとつとしてエナメル芽細胞の増殖や接着に関与していることが近年明らかになってきている。また象牙芽細胞にも作用している可能性も示唆されている。本研究はアメロブラスチンが象牙質形成に直接的に、もしくはエナメル芽細胞を介して象牙質形成に間接的に関与しているという仮説のもと、我々はアメロブラスチンを用いて歯根吸収をコントロールすることを目指した本研究を着想するに至った。最終年度、我々はエナメル芽細胞においてアメロブラスチンがその増殖に与える影響について検討を行った。アメロブラスチン過剰発現させたエナメル芽細胞はその細胞増殖サイクルにおいて細胞増殖抑制因子であるp21Cip1,p27Kip1の遺伝子発現が亢進し、その結果細胞増殖が抑制されていた。一方アメロブラスチンを多く発現しているエナメル芽細胞を使用しその発現を抑制したところ、先ほどとは逆の結果となり、増殖は促進された。よってアメロブラスチンのエナメル芽細胞の増殖に与える影響が明らかとなった。しかし、本研究期間を通じて象牙芽細胞に関しては明らかな作用が確認されなかった。また象牙芽細胞とエナメル芽細胞の相互作用において、アメロブラスチンがエナメル芽細胞の分化度を調節することでコントロールしていると考えたが、両細胞の共培養に多くの困難があり、明らかな結果を得られるまでにはならなかった。
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