研究課題/領域番号 |
24792287
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
坪井 文 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 助教 (50582384)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 口腔粘膜炎 / 口腔ケア / 小児歯科 / 化学療法 / 放射線療法 / 造血幹細胞移植 |
研究概要 |
抗がん医療の急速な進歩により,放射線療法および化学療法を受ける小児が増えている。これらの治療はしばしば重篤な口腔粘膜炎を惹起し,小児のQOL の低下を招く。私はこれまで,小児がん患者の口腔粘膜炎の増悪因子の探索と,予防法の開発に従事してきた。 小児がん患者における口腔粘膜炎予防法の効果を評価するには,小児の口腔粘膜の状態変化を記録するのに適切な評価基準が必要になる。現在,抗がん治療によって生じた口腔粘膜炎の評価基準として臨床上よく使用されているものに有害事象共通用語規準があるが,この基準では小児の口腔粘膜炎は成人を同じグレードを用いる。しかし,細菌学的・解剖学的・病理学的に大きな差のある小児と成人の口腔を同じスケールで評価するのは適切でない。 そこで今回,広島大学小児科に入院する患児のうち,放射線療法および化学療法を受ける患児を対象として,その口腔粘膜状態の変化を放射線療法および化学療法の術前・術中・術後の状態を記録し,炎症所見および疼痛の有無によってグレード分類を行った上で,「舌」「口唇および口角」「歯肉」「頬粘膜」について,臨床的に簡便に使用出来る新しい小児の口腔粘膜炎の評価基準作成を行った。 また,この評価基準をもとに,マウスピース様のドラッグリテーナーと抗菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン)を応用した口腔除菌システム(Dental Drug Delivery System: 3DS)を骨髄抑制下にある小児に用い,その口腔内細菌の変化と口腔粘膜状態について対照群と比較し,その効果の判定を試みた。その結果,「頬粘膜」および「歯肉」で,対照群と比較してDS群の粘膜炎状態が優位に軽減した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
広島大学小児科に入院する患児のうち,放射線療法および化学療法を受ける患児を対象として,その口腔粘膜状態の変化の記録を行なっているが,特に放射線療法および化学療法の術中・術後において,気分不良や就寝中などを理由に協力を得られない場合が想定していたよりも多く,口腔粘膜炎の評価を行うにあたり統計的に満足の得られる母体数が得られていない。 また,3DSの治療効果については,平成24年度に放射線療法および化学療法を行う目的で入院した患児の多くが低年齢であり,3DSのマウスピースを口腔内に保持できない患児の割合が多かった。そのため,3DS群の母集団数が十分に得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,放射線療法および化学療法を受ける患児について,3DS群および対照群の 口腔粘膜状態を記録し,3DSの臨床効果についてデータを集めるとともに、3DS施行前後の小児の口腔細菌数および細菌叢の変化について選択培地によるCFU(Colony Forming Unit)カウントとリアルタイムPCR を用いて解析する。また,唾液流出量や口腔粘膜状態,全身状態の変化について検討するとともに,3DS を用いた全身感染予防プログラムの効果を評価する。十分な対象者数を確保するため,小児病棟の新患については網羅的に口腔粘膜状態の観察を行う。 また,抗がん剤と口腔細菌の相互作用による粘膜上皮細胞,および粘膜線維芽細胞への影響を,培養細胞を用いたin vitro の系で明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
口腔粘膜状態評価のための環境は概ね整っているため,平成25年度はin vitroの系での実験資材購入が主となると思われる。 内容としては,抗がん剤と口腔細菌の相互作用による粘膜上皮細胞,および粘膜線維芽細胞への影響を,ヒト由来正常口腔粘膜細胞 Gin-1への,1)細胞傷害性,2)アポトーシス誘導の2点について,in vitroの系で検討する。そのためTunnel法の試薬キットおよび細胞購入費,血清培地の購入費などがあげられる。 さらに,実験にて得られた成果を発表するため,学会発表および論文発表を予定しており,旅費や翻訳費用,論文印刷費用などを支出する予定である。
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