脂肪細胞への分化に伴い発現が増加し、脂肪細胞の肥大化に伴い発現が低下するD-dopachrome tautomerase(DDT)は、肥満によるインスリン抵抗性改善作用を有するアディポカインである。DDTの脂肪細胞における転写機序を明らかにするため、これまでの研究により同定したDDTプロモータ領域の下流にルシフェラーゼを組込んだレポータベクターを発現させたヒト前駆脂肪細胞株SGBS細胞を用いて、肥満の脂肪組織が曝されている低酸素ストレス、酸化ストレス、低栄養ストレスを与えた際のDDT転写活性について検討した。 DDTプロモーター活性の最も高い領域として同定した(-200/+23)領域を挿入したルシフェラーベクターを導入したSGBS細胞に、500 μM過酸化水素添加による酸化ストレス、1%酸素条件下で培養することによる低酸素ストレス、無血清培地による低栄養ストレスをそれぞれ与え、ルシフェラーゼ活性を測定した。過酸化水素を作用させた群及び無血清培地で培養した群で有意にDDT転写活性の上昇を認めたが、低酸素条件下での培養では上昇を認めなかった。さらに低血糖や運動時に活性化されるcAMP-activated protein kinase (AMPK)の活性化剤であるAICARがDDTの転写活性を上昇させることを認めた。 以上のことより、脂肪細胞でのDDT転写活性は酸化ストレス、低栄養ストレスにより誘導されること、AMPKがDDTの転写活性の調節に関与していることが考えられた。
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