本研究の目的は、矯正的歯の移動初期の圧迫側歯根膜に発現する熱ショックタンパク質A1A(HSPA1A)に着目し、歯の移動における破骨細胞の分化に対する作用を明らかにすることである。これまで、培養したヒト歯根膜線維芽細胞(HPDLFs)にリコンビナントHSPA1Aタンパク(rhHSPA1A 100ng/ml)を添加し、炎症関連因子の発現遺伝子を網羅的に解析したところ、発現が減少する傾向がみられた。そこで平成25年度は、P.gingivalis由来のLPS(10㎍/ml)により炎症関連因子の発現を誘発したHPDLFsに対するHSPA1A(rhHSPA1A 100ng/ml)の影響をマイクロアレイにより網羅的に解析した。さらにIL-6およびIL-8のmRNA発現量を経時的に観察した。LPSの添加により誘発された炎症性サイトカイン/レセプターの発現量は、rhHSPA1Aの添加により減少する傾向が認められた。IL6およびIL8のmRNA発現量の経時的変化は、IL6は6時間後に、IL8は1時間および3時間後にrhHSPA1A添加群で有意に減少した。 近年、細胞外に放出されるHSPA1AはToll-like receptor4を介して炎症性サイトカインの発現を誘発することが報告され、サイトカイン様の働きをすることからシャペロカインと呼ばれている。しかしながら、これについては否定的な報告もあり、いまだその働きについては不明な点が多い。本研究の結果、rhHSPA1Aの添加により炎症性サイトカインやレセプターの発現を誘発することなく、逆にLPSにより誘発された炎症性サイトカインの発現を抑制する結果が得られた。したがって、HPDLFsにおいて、細胞外のHSPA1Aが破骨細胞の分化に重要な役割を担う炎症性サイトカインの発現に対して抑制する働きがある可能性が示唆された。
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