本研究は、咀嚼刺激が歯根膜線維芽細胞による破骨細胞の制御にいかなる影響を与えるか検索することを目的としている。これまでに、歯根膜組織から歯根膜線維芽細胞を分離し、RANKLおよびOPGの発現を認め、歯根膜線維芽細胞と破骨細胞前駆細胞との共存培養では、多核の破骨細胞様細胞が誘導された。また、咬合力の異なる歯根膜線維芽細胞の検索では、咬合側と抜歯側においてOPGの発現に違いがみられた。平成26年度は咬合力の違いによる破骨細胞誘導能の変化について以下の研究を遂行した。 1.歯根膜線維芽細胞と破骨細胞前駆細胞の共存培養:Wistar Ratの左上顎臼歯を抜歯し、3週間後に左右下顎臼歯から歯根膜を採取した。右下顎歯根膜を咬合側線維芽細胞、左下顎歯根膜を抜歯側線維芽細胞として細胞分離培養を行った。それぞれRAW246.7細胞と一定期間共存培養させ、破骨細胞への誘導能を検索した。その結果、抜歯側では咬合側に比べて大型のTRAP陽性細胞が認められた。2核以上の破骨細胞数および破骨細胞の面積を計測した結果では、抜歯側で数が多く、大型の破骨細胞が誘導された。 2.歯根膜線維芽細胞の培養上清を用いた破骨細胞の誘導培養:咬合側線維芽細胞および抜歯側線維芽細胞の培養上清を遠心して余分な細胞を取り除き、少量のsRANKLを添加したものを培養液として破骨細胞前駆細胞を培養した。咬合側、抜歯側ともに破骨細胞が認められたが、抜歯側では咬合側に比べてTRAP染色性が強く大型の細胞が誘導される傾向がみられた。 以上の結果より、歯根膜線維芽細胞は破骨細胞分化・誘導能を示し、その破骨細胞制御機能は咬合力の喪失により変動することが明らかになり、破骨細胞の分化・誘導能に咬合力が影響している可能性が示唆された。
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