本研究の目的は、次世代大規模シークエンシング技術を用いてインプラント周囲疾患に認められるプラークバイオフィルムの全体像を把握し、本疾患の発症・進行に関わる細菌学的因子を明らかにすることである。細菌DNAをベースとして、パイロシークエンスにより明らかになったインプラント周囲炎罹患(PI)部位と歯周炎(P)罹患部位の細菌叢は、門や属のレベルでみると高い類似性が認められたが、種レベルでみると検出頻度の高い細菌叢のコアとなる種には両群で差があることがわかった。 本年度は、インプラント周囲疾患においてより活動性の高い細菌や機能遺伝子を明らかにする目的で、トランスクリプトーム解析を中心に行った。12名の被験者のインプラント周囲炎および歯周炎罹患部位より粘膜下/歯肉縁下プラークサンプルを採取し、細菌RNAを抽出後、シークエンシングにより細菌種の同定と発現している機能遺伝子について検討した。その結果、PI群とP群において歯周病原細菌であるP. gingivalisやFusobacterium sp.が共通して認められ、種多様性は両群で違いが認められなかった。一方でmRNAの定量的解析からPI群において発現量の高い機能遺伝子群(細菌のvirulenceやstress responseに関与する部分等)があることがわかった。インプラント周囲炎にみられる細菌は残存している天然歯や他の口腔部位から伝播している可能性が高く、それゆえ構成細菌種は類似する傾向があると考えられる。しかしインプラントと歯では周囲組織環境の違いなどがあるため、両群の細菌構成は必ずしも同じではなく、またそれは細菌叢がもつ機能的な性質の違いを生み出していると考えられた。
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