研究課題
申請者はこれまでに、独自に開発した脂肪細胞-マクロファージ共培養系において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、valsartanがlipopolysaccaride (LPS) により活性化したマクロファージに誘導される脂肪細胞のインスリン抵抗性を改善することを明らかにしている。この過程でvalsartanが既知の受容体AT1とは異なる標的分子に作用しインスリン抵抗性を発揮することが見出されたことから、本研究では、valsartanの新規標的分子の同定により、valsartanが代謝性内毒素誘導性インスリン抵抗性を改善する分子機序の解明を行う。まず、valsartanが影響を及ぼす遺伝子群について網羅的に解析するため、3T3-L1 脂肪細胞とRAW細胞を共培養し脂肪細胞の遺伝子発現について経時的検討を行った。この結果、LPS刺激によってNF-κB、TR、AP-1の下流にある遺伝子群が大きく変化を受け、valsartanの添加によって、これらの変化が回復することが判明した。また、valsartanはLPS刺激による脂肪細胞のMMPやCaspase、integrinファミリーの発現誘導を抑制することが明らかとなったことから、valsartanがマクロファージの浸潤した脂肪組織における遺伝子発現を正常化させ、アポトーシスや線維化を抑制する作用がインスリン感受性改善に関与している可能性が示された。また、in vitroにおいて確認されているvalsartanの炎症抑制作用がin vivoにおいて同様にみられるかどうかについて調べるため、マウスにvalsartanを服用させLPS誘導性の炎症に対する影響を検討した。この結果、脂肪組織および肝臓においてvalsartanがLPS誘導性の炎症性サイトカイン遺伝子発現を抑制することが明らかとなった。
3: やや遅れている
Valsartanが影響を及ぼす遺伝子群についての網羅的解析を脂肪細胞、肝細胞とマクロファージの共培養系を用いて行い、また、マウスを用いてin vivoでのvalsartanの作用の再現性の確認を優先して行ったことから、当初計画していたvalsartanと親和性のあるタンパク質についての検討はやや遅延している。
1) valsartanがマクロファージのNF-κB/AP-1活性化を抑制する現象に着目し、NF-κB/AP-1経路の既知シグナル分子とvalsartanの親和性を検討する。一方、アフィニティクロマトグラフィによりvalsartanと親和性のあるタンパク質の網羅的同定を進め、この中からNF-κB/AP-1活性化に関わるタンパク質を絞り込む。2) 結合が認められたタンパク質をノックダウンし、valsartanの抗炎症作用の発現に重要かどうかを検討することにより、求める標的タンパク質を特定しその機能解析を行う。3) 明らかにした標的タンパク質について、valsartanとの結合領域を特定し、valsartanがこのタンパク質の量・活性・分子修飾・シグナル分子複合体形成などに及ぼす影響を詳細に検討する。
上記「現在までの達成度」で述べたように、当初の計画からはやや遅れていることから当該研究費が生じている。次年度において当初の計画に沿って、valsartanと親和性のあるタンパク質についての検討を進め、上記「今後の推進方策」で述べた、siRNAやアフィニティクロマトグラフィ、ウェスタンブロット分析、遺伝子解析等に必要な一般的な実験試薬、実験器具類や、外部の専門業者への質量分析の委託費用、細胞培養を常時行うための費用およびマウス飼育費用として使用する。また、国内、国外において研究成果を学会で発表する際に必要な旅費として使用する。
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