研究課題/領域番号 |
24792330
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松田 真司 広島大学, 病院(歯), 病院助教 (30611321)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | BDNF / 歯周組織再生 / 歯肉上皮細胞 |
研究概要 |
歯周組織再生はシャーピー繊維の埋入を伴った新生セメント質と歯槽骨、及び歯周靭帯を再構築することであるが、歯肉上皮の侵入はこれらの組織の再構築の場を占有し、歯周組織再生を阻害する。ビーグル犬の根分岐部病変III級モデルを用いた実験では、脳由来神経栄養因子(BDNF)による歯周組織再生過程で歯肉上皮の侵入は認められなかった。BDNFを安全で確実性の高い歯周組織再生療法として臨床応用するためには、この重要な知見をより詳細に分子レベルで理解し、再生のメカニズムを解明する必要がある。そこで、本研究ではBDNFの歯肉上皮細胞に対する影響を明らかにするため、歯肉上皮細胞の増殖抑制、またその抑制に関わるシグナル伝達経路を解明するため実験を行い、以下の結果が得られた。1 BDNF刺激は、human periodontal ligament (HPL) cellsの増殖を促進したが、human gingival epithelial cells (HGEC)の増殖には影響を与えなかった。2 HPL cellsおよびHGECは高親和性受容体trkB,低親和性受容体p75を発現していた。3 BDNF刺激は、HPL cellsのtrkBのリン酸化を促進したが、HGECのtrkBのリン酸化を促進には影響を与えなかった。以上の結果から、BDNFは歯肉上皮細胞において、歯根膜細胞とは異なり、trkB-ERKカスケードではなく、p75受容体を介したシグナル伝達経路が優位に働いている可能性が示唆された。このことが、BDNFが歯周組織再生過程において歯肉上皮の深部増殖が観察されない理由であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BDNFによる歯周組織再生過程において、歯肉上皮の深部増殖が抑制されている像が確認されていたが、そのメカニズムは明らかでなかった。本実験の結果からBDNFが歯肉上皮細胞の増殖を促進しないことが明らかとなり、そのメカニズムにBDNFの低親和性受容体であるP75を介するシグナル伝達経路に注目した。歯肉上皮細胞がP75が発現していることを明らかにし、歯肉上皮細胞のTrkBのリン酸化をBDNFは変化させなかった。今までにBDNFがtrkBを介し、歯肉靭帯細胞や、血管内皮細胞の増殖をtrkBを介して促進させることが報告されているが、歯肉上皮細胞においてはtrkBを介したシグナル伝達は活性されなかった。このことはBDNFが歯肉上皮細胞の増殖を促進させないことが示唆される。これらの知見は申請書に記載した24年度の研究目的を順調に進展させていると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
BDNFによる歯肉上皮細胞の増殖抑制のメカニズムを解明するために、BDNFの歯肉上皮細胞のアポトーシスに及ぼす影響についての研究を行う。BDNFが歯肉上皮細胞及び他種の歯周組織を構成する細胞のアポトーシスに及ぼす影響について検討する。アポトーシスの検討はBDNFが歯肉上皮細胞及び他種歯周組織構成細胞のカスパーゼ-3、-8、-9、及び抗アポトーシス蛋白であるBcl-2、Bcl-w、Mcl-1、Bcl-xLさらにプロアポトーシス蛋白であるBax、Bak、Bad、Bcl-xsの発現に及ぼす影響についてreal-time PCR及びwestern blottingを用いて比較検討する。上記したBDNFによって誘導されるアポトーシスの分子メカニズムの解明はそのアポトーシスに関与するシグナル経路に注目し、 ERK阻害剤、MAP kinase阻害剤、JNK阻害剤を用いて抗アポトーシス蛋白(Bcl-2等)、プロアポトーシス蛋白(Bax等)及びカスパーゼの発現に及ぼす影響について解析する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
歯肉上皮細胞培養のための試薬、培地(ヒトリコンビナントBDNF、上皮細胞用培地)。タンパクの発現をwestern blotting、ELISA、及び蛍光免疫染色で解析を行う。そのための器具及び試薬を購入予定である。遺伝子の発現はreal-timePCRで解析を行い、そのための試薬を購入する。 BDNFの歯肉上皮細胞増殖に及ぼす影響の細かい検討を細胞増殖BrdUアッセイkitを用いる。またBDNFの歯肉上皮細胞のアポトーシス誘導メカニズム解明のために、ERK,p38,JNKインヒビターを購入予定である。
|