Insulin-like growth factor I(IGF-I)は骨芽細胞や軟骨芽細胞、骨細胞の分化増殖を促進し、骨の成長促進に必要不可欠な物質であることが明らかになってきた。これまでの我々の研究結果では、成長期ラットの下顎骨および下顎頭において骨形態学的、組織学的に成長促進作用を有することが確認され、本研究では顎口腔組織の成長・老化に関わる働きを明らかにすることを目的に顎骨の細胞増殖、細胞老化に及ぼす因子とIGF-Iとの関係について検討を行う。本年度は、下顎第一臼歯を抜歯した抜歯モデルラットを作成し実験に用い、持続的にIGF-Iを投与した実験群と生理食塩水を投与した対照群を比較検討した。昨年度までにマイクロCTを用いた検討で有意に骨量が増加していたIGF-I投与実験群の歯槽骨において、その機序を解明する目的で病理組織学的な検索を行った。病理組織学的検討項目として、オステオカルシン免疫染色による骨芽細胞数とTRAP染色による破骨細胞数に着目した。 抜歯窩の骨芽細胞数は実験群において増加している傾向がみられた。一方、抜歯窩の破骨細胞数は実験群と対照群との間に有意差はみられず、これまでの成長期ラットの研究結果と同様であった。今年度の病理組織学的検討では、抜歯窩の骨芽細胞と破骨細胞の局在にも着目した。実験群と対照群では、ともに破骨細胞は抜歯窩でも骨吸収が生じやすい形態の部位に集中してみられた。骨芽細胞は、抜歯窩の骨表面に存在するものに限定した場合では、実験群と対照群で差がなく、前年度の結果で抜歯窩の骨形成が促進して、歯槽骨吸収が抑制されることには関連していない可能性が考えられた。
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