研究課題/領域番号 |
24792348
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
土谷 忍 東北大学, 大学病院, 医員 (90547267)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 食習慣 / 糖代謝 / IL-6 |
研究概要 |
軟食は一般食よりも栄養吸収効率が良く、急速な血糖値の増減が起こり、生体における最大の糖貯蔵器官である肝臓への負荷が大きいものと推察される。その慢性的摂取は肝臓の糖代謝機構の発達過程に影響する可能性も考えられるが、それを明らかとした研究は認められない。 咀嚼運動時のIL-6の動態を解明するため、以下の実験系を用いた。6-8週齢のBalb/cマウスをプラスチック板で遮蔽した円筒に閉じ込めると、マウスは自発的にプラスチック板を咀嚼する。これを用いて咀嚼筋から産生されたIL-6が循環器系を介して肝臓に作用し、SOCS3の発現上昇とグリコーゲン量の低下が誘導されることが明らかとなった。また咀嚼運動後30分の時点においてXBP1の発現の上昇が確認された。以上の結果は、咀嚼運動の質を左右する日常的な食習慣がIL-6-XBP-1系を介して肝の糖代謝機能に影響することを示す。 粉末食(以下Soft群)あるいは固形食(以下Hard群)の摂食前後のマウス血糖値の動態について比較検討を行い、30分間の摂食量については両群間に差を認めなかったもののSoft群の血糖値に関して、食後の上昇と絶食後早期の低下が確認された。これらの結果から、粉末食では吸収・消化が迅速に行われるため、摂食前後の血糖値の動態が大きく、それを制御するための糖代謝調節機構の負担は大きくなるものと推察される。 食餌を介した肝臓への慢性的な負荷が肝臓の糖代謝機構に与える影響を解析するため、粉末食により長期飼育を行った。Soft群では有意に高い平常血糖値と低い血中インスリン濃度が確認され、マウス血清中のノルアドレナリン量の測定では、Soft群で有意に高い傾向にあった。これらのマウスを用いて糖代謝機能に関する比較検討を行ったが、血糖値の動態については有意な差は認めなかったが、糖負荷時の血中インスリン濃度については有意な上昇が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年,インスリン抵抗性に伴う糖尿病や肥満など、代謝性障害による生活習慣病の増加が世界的に問題となっている。原因として成長期における不規則な食生活の問題が示唆されており、社会的に『食育』への関心が高まってきている。小腸から吸収された栄養分は門脈系を介して肝臓に必ず集められるため、肝臓を中心とした代謝機構は食生活の質に直接的に影響を受ける。本研究では、栄養分の消化・吸収が簡易である粉末食を利用して、食生活が直接的に肝臓の糖代謝機構の発達過程に影響することを、糖代謝、血糖値調整因子の血清レベル、および肝臓における小胞体ストレスを指標として明らかとした。すなわち、食生活の質的低下が個体の健康に大きく影響を及ぼす環境因子であることが明らかとされ、特に成長発育期における『食育』の役割を更に明確に示したものであるといえる。 小胞体ストレス応答とは、正常な高次構造を形成できなかったタンパクが小胞体に蓄積した場合に起こる細胞の反応であり、細胞の機能障害を引き起こし、重度のストレスの場合にはアポトーシスが誘導される。本研究ではXBP1に変化は認められたものの、共同して働く分子である、BiP/GRP78やCHOP/GADD153、ATF-3、 -4については有意な変化は認められなかった。上記の分子については、過去の研究によりタンパクレベルでのリン酸化や切断による活性化が報告されており、今後はこの点についても検討を行う必要がある。 本研究では、食習慣の質的低下が、成長期における肝臓を中心とした糖代謝機能の発達を障害することを明らかとし、発達期における適切な食習慣が肝機能の発達を介して個体の成長発育の重要な環境因子となることを明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
軟性食餌により長期飼育を行ったBalb/cマウスから採取した肝臓組織を用いて、以下の実験を行う。①肝臓組織内のIL-6シグナリングの検討:軟性食餌飼育により、肝臓組織におけるIL-6シグナリング関連分子の発現が低下していることをウェスタンブロッティング(p-STAT3(Cell Signaling))および定量RT-PCR(SOCS-3、PEPCK/Pck1、PGC-1α/Ppargca1)により明らかとする。②免疫組織化学染色法による検討:抗p-STAT3抗体を用いて、軟性食餌飼育群の肝臓における発現の低下を示す。肝臓組織内のp-STAT3核陽性細胞数のカウントして定量的な解析を行う。 肝臓糖代謝への筋由来IL-6の役割の証明:IL-6KOマウスでは、軟性食餌による肝臓の糖代謝機構の発達障害が早期に起こることが予想される。軟性食餌による長期飼育を行い、これまでBalb/cマウスで行ってきた実験と同様の解析を行う。 以上の結果から、食餌の質的低下はIL-6の発現量減少に直結し、肝臓の糖代謝機能の発達障害が起こることを示し、『成長期における食生活は重要であり、将来的な生活習慣病の予防を目的として意義がある』ということを証明するものである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初予定していた組織切片の作製および組織学的検討を次年度に延期することによって生じたものであり、延期した組織切片作製および組織学的検討を行う際に必要な経費として、平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。
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