DNA多型検査による新たな個人識別法として、X染色体上の18箇所のSTR多型を同時に検査出来る検査法を作成し、546人の日本人多型情報を取得し、論文として発表した。従来のDNA検査では常染色体(親から子へ二分の一の確率で遺伝し、血縁が遠くなると識別能力が著しく低下する)Y染色体(父親から息子へそのまま遺伝する)の2種類が用いられてきたが、X染色体検査は既存の検査では検討不能な事例の幾つかを(父親と娘の関係において常染色体鑑定のみでは結論が出せない場合等)の鑑定を可能とし、X染色体を用いたDNA鑑定単体でも十分な識別能力がある事を立証した。 X染色体は母親から子供へ遺伝する場合において組み換えを起こす。その為、母親の持つ2つのX染色体のどの部位がどう組み換えを起こして子に伝わったかを把握し利用する事が出来ればX染色体検査だけの利点となると考え、上記18座位検査とは別に、組み換え検査用に13座位のX-STRを一度に増幅するPCR法を作成した。実際の鑑定事例に置いて使用し、組み換えを考慮したX染色体DNA検査を行う事でより精度を高める事に成功した。 当講座で作成した18座位検査と13座位検査に加え、市販の12座位検査キットで同一サンプル(日本人約550人)を検査し、常染色体、ミトコンドリア、Y染色体の3種の検査結果との比較検討を可能とするデータベースを作成し、また、マレーシア人約300人のX-STR36座位の多型情報を取得した。マレーシア人集団は、東アジア集団である日本、中国、韓国の3集団に比べて多型の分布に明確な有意差が見られ、それらはヨーロッパ人集団と日本人集団との比較の間に入る事で、連続性を持って両者の間を埋める傾向を示した。
|