「食」は生命維持に欠かせない要素であり,QOLを高める上でも重要な位置を占めている。食事の際に感じる「おいしさ」とはflavor(風味)”味・匂い・舌触り”であり,中でも「味覚」と「嗅覚」の関与が必須と考えられている。中枢神経系において味覚情報は視床後内側腹側核(VPMpc)を,嗅覚情報は嗅球(OB)から更に梨状皮質(PC)を介して島皮質に送られると考えられているが,その統合機構については不明な点が多い。 本研究では全脳動物標本を作製し,味覚の中継核であるVPMpcと匂いに関する情報を送るOBに同心円刺激電極を留置し,VPMpcとOBそれぞれ単独に電気刺激した場合の大脳皮質における応答を観察後,同一個体にて同時刺激を行い応答性の変化を観察した。 その結果,VPMpcを電気刺激(50 Hz,5回刺激)すると,中大脳動脈に近接して左右の不全顆粒島皮質(DI)およびその周辺皮質に興奮伝播が観察された。一方,OB腹側表層を刺激すると,島皮質腹側に位置する梨状皮質および無顆粒島皮質(AI)に応答が認められた。VPMpcとOBをそれぞれ単独刺激した場合,興奮が伝播した領域に重なりはほとんど認められなかった。 VPMpcとOBを同時に電気刺激した場合には,AIにおいて応答変化率に増加傾向が認められた。DIやPCでは最大応答部位の振幅に有意な変化を認めなかった。 これらの結果は,味覚と嗅覚の統合部位の一部はAIで行われていることを示唆している。
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