研究概要 |
1. ECFシグマ因子変異株の作製 P. gingivalisの株間により各ECFシグマ因子が支配している遺伝子に差が認められる可能性もあるので、全ゲノム配列がすでに発表されているW83株と代表的な株である33277株の両方においてECFシグマ因子変異株を作製した。5つのECFシグマ因子遺伝子(PG0162, PG0214, PG0985, PG1660, PG1827)及びその周辺をP. gingivalis W83と33277株のゲノムをもとにPCR法で増幅し、T-ベクターに組み込みDNA塩基配列をDNAシークエンサーにて確認した。その後目的遺伝子内にエリスロマイシンカセットを挿入したターゲッティングベクターを構築し、エレクトロポレーターによりターゲッティングベクターを33277株とW83株にそれぞれ導入した。相同組換えを起こさせることによって得られた遺伝子挿入変異株をエリスロマイシンにてセレクションを行うことにより選択培養し、ゲノム抽出後サザンハイブリダイゼーション法にて目的の遺伝子が破壊されたか確認を行った。 2.ECFシグマ因子とバイオフィルム形成能との関連 野生株、ECFシグマ因子遺伝子挿入変異株を用い嫌気培養下において増殖曲線を測定した。その結果、野生株と比較しECFシグマ因子遺伝子挿入変異株はすべて若干の成長速度の遅れを認めた。その変異株の中でも、PG1827変異株は成長速度の遅れが顕著であった。次に、33277野生株、33277株由来のECFシグマ因子遺伝子挿入変異株5種類を用いクリスタルバイオレット染色法にてバイオフィルム形成能を比較した。その結果PG0162,PG0214,PG1827変異株は野生株よりバイオフィルム形成能の増加を認めた。その中でも、PG0162とPG1827変異株にて顕著な増加を認めた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度に得られたECFシグマ因子とバイオフィルム形成能との関連性についてさらに解析を進めたいと考える。その方法として、申請時に予定していたDNAマイクロアレイもしくはタイリングアレイ法を行い、菌全体を包括した解析にてそれぞれのECFシグマ因子の支配下にある遺伝子群を速やかに確定したいと思う。だが、すべてのECFシグマ因子については予算の都合上アレイ解析を行えないと思うので、PG0162,PG1827を優先して解析を行う予定である。また、バイオフィルムとの関連性については、対数増殖期や静止期、死滅期などの培養期間におけるECFシグマ因子の転写量にも変化が認められると予想できるので、リアルタイムPCR法にて解析を行いたいと思う。また、ECFシグマ因子は転写因子なので、その支配下にある遺伝子を特定できたなら、ゲルシフトアッセイなどで、支配下遺伝子のプロモーター領域とECFシグマ因子が結合するのか確認したいと思う。 その他に、ECFシグマ因子とバイオフィルム以外の環境ストレスとの関連性がないか確認する必要がある。方法としては、野生株、ECFシグマ因子遺伝子挿入変異株を用い好気培養下または種々のストレス環境下(温度、pH、鉄欠乏など)において増殖曲線を測定し、両株に違いがあるか確認する。別に簡便に行うことができる方法で、野生株、ECFシグマ因子遺伝子挿入変異株を用い感受性ディスク法にて種々の薬剤(H2O2, diamide, metronidazole, mitomycin C, ethanolなど)に対する感受性試験を行い、変異株の性状解析を行うことも予定している。最後に、野生株と5種類のECFシグマ因子それぞれの変異株を用いて、P. gingivalisの病原性(プロテアーゼ活性、赤血球凝集活性、血小板凝集活性)とECFシグマ因子との関連性についても解析する予定である。
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