研究課題
摂食・嚥下障害者にとって、適切な嚥下惹起は、誤嚥、窒息の予防に不可欠である。しかし、近年、咀嚼する食物の物性や咀嚼自体により、嚥下惹起のタイミングが変化することが明らかになってきた。超高齢社会を迎えるにあたり,摂食・嚥下障害を有する高齢者が安全に咀嚼でき、かつ嚥下惹起しやすい食品の開発が望まれる。本年度は,摂食・嚥下障害の既往のない超高齢者を対象として,トロミ付加による水分の粘性増加が二相性食物(固形物と液体)咀嚼中の食物の送り込みや嚥下惹起に与える影響を検討した。摂食・嚥下障害の既往がなく,常食摂取している高齢者21名(平均年齢86.6±4.0歳)を対象に,被験食品を摂取したときの食物の咽頭流入を経鼻内視鏡にて記録した。被験食品は、水5ml,米飯5g,および米飯5gと水3mlの二相性食物(Two-phase food, TP)とし、TPの水成分はトロミ濃度0, 2, 4 wt%の計3種類とした(TP0, TP2, TP4)。嚥下内視鏡でのWhite-outを嚥下開始と定義し、嚥下直前の食物先端位置が食物間で相違があるか検討した。液体嚥下では,48%の対象者において,嚥下開始までに液体が梨状窩底に達していた。また,咀嚼嚥下中に食物が梨状窩底まで達した対象者の割合は,米飯咀嚼で33%,TP0で53%であった。粘性の増加により,その割合は低下したが,TP4でも36%の対象者で梨状窩底まで達した。嚥下開始直前の食塊位置は,食物間で統計学的な有意差があったが,その後の多重比較で有意差を認めなかった。高齢者では,食物形態にかかわらず,食物先端が高率に下咽頭にまで達していた。本結果から咀嚼嚥下時にはトロミ付与したとしても食事形態には十分な注意が必要であり,また適正な食事摂取のスクリーニングが必要であると考えられた。
3: やや遅れている
本年度は,職務地が1月に長野県から愛知県に移ったため,異動前の2ヶ月間は,異動準備に多くの時間が費やされ,異動後の3ヶ月間は,主任教授として新教室を立ち上げるためにほぼ全ての時間が費やされたため,研究のための時間を大幅に縮小せざるを得なかった。異動前に進めていた実験内容を解析することで,本研究内容の進捗はあるものの,予定よりは遅れているのが現状である。新教室の立ち上げが完了すれば,研究に対しての時間もまた取れるので,次年度は遅れた分も含めて進めていく予定である。
次年度は,本年度にデータ採取を行った被験者に対して,誤嚥,窒息などの呼吸器合併症が出現していないか,食事のレベルが変化しないかフォローアップし,1年後には再検査を行う前向きコホート調査を計画している。また,本年度に行った研究成果を国内,国際学会で積極的に発表するとともに,論文としてまとめ報告し,今後食品の味、温度、粘性を含めた検討へと展開していく予定である。
次年度は,本年度に行った研究内容を,解析し報告としてまとめ,国内,国外の学会で積極的に研究成果として発表する予定である。そのための旅費,学会参加費として使用する。また,追加実験における備品の移動費や解析物品購入に充当する予定である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)
Dysphagia
巻: 28 ページ: 63-68
10.1007/s00455-012-9413-1
Clin Oral Invest
巻: in press ページ: -
10.1007/s00784-012-0810-5
Gerodontology
10.1111/ger.12020
巻: 29 ページ: 870-882
10.1111/j.1741-2358.2011.00577