研究概要 |
超高齢社会を迎えるにあたり,摂食嚥下障害を有する高齢者が安全に咀嚼でき、かつ嚥下惹起しやすい食品の開発が望まれる。そこで,本研究では,摂食・嚥下障害の既往のない超高齢者を対象として,トロミ付加による水分の粘性増加が二相性食物(固形物と液体)咀嚼中の食物の送り込み,嚥下惹起,呼吸変化に与える影響を検討している。本年度の検討では,昨年実施した調査結果の解析をさらに進めていった。 摂食嚥下障害の既往がなく,常食摂取している高齢者19名が,被験食品を摂取したときの食物の咽頭流入を経鼻内視鏡にて記録した。被験食品は、米飯5g,および米飯5gと水3mlの二相性食物とし、水成分はトロミ濃度0, 2, 4 wt%の計3種類とした。呼吸リズムはプレスチモグラフにて記録した。各被験食品での嚥下開始直前の食塊先端位置を同定し,そのときの呼吸相を吸気,呼気,プラトー相の3相に分類した。咀嚼時間と嚥下直前の食物先端位置および嚥下前の呼吸相が食物形態によって相違があるか検討した。 咀嚼時間は,食物の粘性が低いときに有意に短縮していた。嚥下開始直前の食塊位置は,二相性食物の粘性が変化しても高頻度で下咽頭へと達していた。一方,嚥下前の呼吸パタンは,米飯や粘性高度の二相性食物では呼気相またはプラトー相で嚥下が起こっていたが,粘性低度の二相性食物では 吸気相で起こる割合が32%(6/19例)まで増加していた。 高齢者では,液体の粘性が低いと,下咽頭への送り込みも早く,咀嚼時間も短縮していた。粘性が高まると,咀嚼時間が有意に延長し,しかも,食物先端が高率に下咽頭にまで達していた。本結果から咀嚼嚥下時にはトロミ付与したとしても食事形態には十分な注意が必要であると考えられた。一方で,粘性低度の二相性食品で吸気中の嚥下惹起が増加していたことより,高齢者では呼吸の予備力低下とともに咀嚼嚥下と呼吸パタンとの協調性が低下していることが示唆された。
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