看護師は患者の「食べること」について安全を前提としており、その上で患者の満足を支える援助を目指している。食べることは個人的な経験によって培われ、その経験は食に関連した多くの行動に影響している。「食への援助」は看護師の臨床経験や人生経験に伴い変化すると予測される。本研究では看護師の「食への援助」に関わる思考過程のうち、安全に関連する事柄を経験年数で比較することで、実践に至る経緯と実践を支持する背景の違い、経験に伴い思考が変化する理由を明らかにする。 平成27年度は不足していた対象者(特に臨床経験10年および20年を有する対象者)への調査を実施したうえで、経験年数ごとの分析を行った。 結果、看護師は食べることへの安全確保には「誤嚥や窒息の回避が重要」と捉えていた。実践内容は意識状態の確認、嚥下状況や食事形態・食事内容等の観察、誤嚥リスクのアセスメント、誤嚥回避に望ましい姿勢の保持、医師や管理栄養士との連携を図る等であった。これらは全ての経験年数に共通していた。実践する理由は、臨床経験3年の看護師は自発的な思考よりも周囲(先輩の指導や病棟での決まり等)の実践状況が動機になっており、臨床経験5年の看護師は看護チーム内でリーダー役割をとる等、自身が担う役割が変化したことで視野が広がり、援助行為の目的や実践の必要性を考えるようになったためであった。また、臨床経験10年および20年の看護師では異動や転職等がこれまでの自身の経験や実践を振り返る機会となり、安全の重要性を再認識したことにあった。実践の背景には「過去の自分の援助行動に対する何らかの後悔」が存在していることが共通していた。 食べることへの安全を確保した援助の実践と経験年数による思考の変化には、「自身が担う役割の変化」と「現場での経験(個人の経験と先輩等から伝えられる他者の経験)の積み重ね」が影響していることが示唆された。
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