研究課題/領域番号 |
24792474
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
森谷 利香 摂南大学, 看護学部, 講師 (20549381)
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キーワード | 多発性硬化症 / 疲労 / 漸進的筋弛緩法 / 看護 |
研究概要 |
本研究の目的は、多発性硬化症(Multiple Sclerosis; 以下MS)病者に特有の疲労に対して、新たな漸進的筋弛緩法(Progressive Muscle Relaxation; 以下PMR)を開発し、介入・評価することにある。平成25年度は以下の項目で、研究活動を行ってきた。 【新たなPMRのCD作成】昨年度までの運動療法士等との検討に基づき作成したプログラムをCD化した。CD作成業者と相談し、リラクゼーションしやすいBGMを採用し、ナレーションを録音した。 【新たなPMRによる介入プログラムによるパイロットスタディ】新たなPMRのCDを用いて介入を行い、評価した。この目的は、新たなPMRのプログラムの安全性の確認である。対象者には、それぞれ3か月の介入を行っている。3か月の間に、2週間の休止期間を設け、その前後で評価を行う単一対象研究デザインである。また、疲労はその機序が明らかでないため多側面からの評価が望ましいとされる。そこで介入における評価は、主観的疲労、心理的評価(POMS、SF-8)以外に、生化学的側面として唾液中Ig-A、唾液中アミラーゼ濃度のほか、自律神経の測定、および日誌として自由な感想の記載を求めた。評価のタイミングは、介入開始前、15日目、35日目、49日目(中断)、64日目(再開)、84日目である。 【他の代替保管療法との併用の検討】新たなPMRと共に、他のCAMの併用を検討している。そこでCAMの中でも一般的に使用されているアロマセラピーについて、文献レビューを行った。結果、機序が明確ではない症状に対してアロマセラピーが試みられていること、および、精油種類は対象者の嗜好を尊重する方が好ましい効果を得られること、対象者には女性が多いことなどが明らかになった。これらを踏まえて、今後のアロマセラピーの活用について検討を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで森谷らは、MS病者の疲労に対して既存のPMRのプログラムを用いた効果の検証を行ってきた。この研究によって明らかになった課題を再度整理し、①下肢の項目が少ない、②首の項目は残す、③全体として25分間とする、④上肢や下肢の場合、両方を一度に運動することで、片方の麻痺を強く認識する場合があり別々に動かす方が良いが挙げられた。平成24年度はほぼ予定通り、4つの課題を踏まえた新たなプログラムを開発し、平成25年度はそれをCD化した。現在、4名の対象者に3か月間継続したプログラム実施と評価の介入を行っている。このうち2名は介入の続行中である。 介入が完了した2名については次のような結果を得た。まず2事例とも安全に3か月間のプログラムを実施できた。2事例とも女性で、年代は30~40歳代である。感覚異常や視覚異常を有するが、日常生活は自立し就業している。事例1ではVASは3か月後にも2で変化なかった。精神的QOLは31.38から3か月後には51.14に上昇した。身体的QOLは46.62から中断前には55.33まで上昇したが、再開後は34.33と低くなった。POMSはT-A(緊張)、A-H(怒り)、F(疲労)、C(混乱)などネガティヴな感情を表す値はいずれも低下していた。日誌では、PMRすると唾液が多く出る、入眠しやすいといった日もある。しかし、疲労が強くてPMRできない、集中できないといった日もあった。事例2はでVASは5から1に低下した。一方で、精神的QOL、身体的QOLやPOMSは微減したものの大きな変化はなかった。日誌では、2か月目に新たな症状である痛みが出現し、パルス療法や鎮痛薬が追加されることがあった。PMRの感想としては、開始後初期から「眠気」などの記載が多く、「手がしびれる」などもあった。
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今後の研究の推進方策 |
【パイロットスタディの完了】現在2人が完了し、2人が進行中であり、他2名予定している。パイロットスタディを通して、新たなPMRの安全性を確認する。同時に、疲労を多側面から考察するために、現在分析中である自律神経の状態、および唾液中Ig-A、唾液中アミラーゼ濃度などから、総合的に検討する予定である。また、参加者募集の際に協力いただいた患者支援団体に結果を報告する。 【新たなPMRの効果の検証】新たなPMRのパイロットスタディのパイロットスタディが安全に完了すれば、対象者を増やし、準実験的研究デザインによる介入を開始する。患者支援団体を通じて広く対象を募り、郵送によってCDおよびオリエンテーション資料を送り、3か月の実施を依頼する。評価は4時点で、心理的側面、および日誌を予定している。対象群を設定し、これらの評価を比較する予定である。また、これまでの結果から、PMRによって疲労が減少する対象とそうでない対象に分かれるため、効果の有無に影響する要因を検討する。具体的には、PMRはストレスの認知と筋緊張の連鎖を断ち切るという考え方に基づいていることから、ストレスの要因や、それと疲労との関連性、あるいは病態や治療別を検討する予定である。 【今後の推進方策】 これらの計画を円滑に進めるために、現在協力を得ている難病看護の経験が豊かな看護師との連携を継続し、定期的に方針を確認し合う機会を持つ。さらに、関連文献を精読し、研究の方向性を修正、補足する。特に、リラクゼーションに関する看護技術を取り扱う文献を確認し、その方法や評価の動向を参考にすることが重要と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、CD作成費(複製およびラベル作成)が必要である。また、郵送費(依頼に加え、対象者には評価のために少なくとも4回の往復のやり取りが必要。また対照群にも同様に必要である)と評価のための尺度使用料を新たに支払う。さらに、新たな評価方法に必要な費用の可能性(自律神経の状態を測定する、より簡便な機器があるため、検討を継続する)も検討する。対象者には相当の謝金を支払い、データ収集を代行する看護師には謝金が必要になる。そして、成果の発表では、抄録等のネイティヴチェック、学会参加費用、別刷り代などが発生する。 研究全体を通した出張費として、必要時に対象者への説明する、あるいは対象者の主治医への説明する場合、および患者支援団体への説明と協力要請などが考えられる。図書、論文の収集と文具も必要になる。 計画に基づき費用を算出し、執行する。また物品は事務を通して複数業者に見積もりをとり、可能な限り安価で購入する。
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