酸化ストレス指標(尿中8epiPGF2A、8-OHdG)および内分泌系指標(尿中cortisol)、自律神経系指標(尿中Catecholamine)、免疫系指標(母乳中SIgA)が産後鬱の評価に妥当であるか検討した。コントロールとして出産年齢の非妊時女性を対象とした調査では、GHQおよびPOMSのT-A(不安-緊張)、D(抑鬱-落ち込み)、F(疲労)、C(混乱)による心理状態がadrenalineやdopamineの濃度を反映することが明らかとなった。しかしcortisol値は年齢や起床・睡眠時刻に鋭敏に影響されるとともに心理尺度との関連が見られなかったことから、年齢や睡眠状態が交絡因子となる可能性が考えられた。産後1カ月の女性を対象とした本調査では、尿中指標に加え母乳中SIgAを生化学的指標とし、さらに心理尺度としてEPDSを加え検討した。その結果非妊時女性と異なりGHQやPOMSのT-A(不安-緊張) 、F(疲労)とadrenalineやdopamine、cortisolと関連があるものの強い相関は認められず、さらに心理尺度と酸化ストレス指標(尿中8epiPGF2A、8-OHdG)との関連が認められなかったことから、酸化ストレス指標は身体への襲侵が大きい周産期の女性の精神状態を把握するための指標としての有用性は低いことが考えられた。一方でGHQの「希死念慮うつ傾向」項目と母乳中SIgAに強い相関が認められた。生化学的指標を用いた産後鬱の評価の可能性は示唆されたものの今後交絡因子および検体採取・評価方法等についてもさらに検討を重ねる必要がある。
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