最終年度である26年度は,妊婦およびコントロール群として未経産女性を対象に起立から歩行開始までの一連の動作について解析を行った.解析には25年度までに算出したした妊婦の下部体幹部分における身体部分係数を動作解析プログラミングソフトBody Builderの計算式に適用し,妊娠中の経時的な動作様式の変化とコントロール群との比較を行った.妊婦群では第1期は妊娠16-18週,第2期は24-25週,第3期は32-33週と計3回の計測を行った. 妊婦群では,第3期に歩行開始時に上部体幹の屈曲モーメントがコントロール群よりも有意に小さくなっており,妊娠週数の進行に伴う下部体幹の突出・質量増大による前方への推進力を制御するための戦略が生じている可能性が示唆された. また,起立から歩行開始動作のより実用的な動作として,配膳動作を踏まえて起立と方向転換を伴う軽量物の運搬動作を計測し,解析を行った.歩行開始時,妊婦群の上部体幹の屈曲角度は全3期においてコントロール群よりも有意に大きく,下部体幹の屈曲モーメントおよび股関節屈曲角度が第2期に有意に大きくなっていた.起立から直進歩行開始までの一連動と同様に前方への推進力が増すことが考えられるが,進行方向への方向転換を伴うことでより推進力が増している可能性がある.第2期は特に腹部の膨大が著明な時期であるため,安全な動作方法の指導が必要であると考える. さらに,妊婦群の動作解析において,既存の若年日本人女性の身体部分係数と本研究で得られた妊娠時期毎の値を適用した場合で結果を比較すると,本研究で得られた値を適用した際に,妊娠週数が進行するにつれて有意差が生じるパラメータが増えた.このことから,各妊娠時期に適した身体部分係数を用いて動作解析を行うことで,これまで顕在化されてこなかった転倒リスクにつながる動作様式の変化を抽出することが可能となると考えられる.
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