本研究では、療養者、家族が服薬状況を入力するだけではなく、薬剤師が在宅医療における服薬管理に従来よりさらに関与し、その情報を多職種で共有するための仕組みづくりを行った。療養者・家族が中心となって情報発信し、医療者・介護者といつでもどこでも情報共有できるアプリケーション「電子連絡ノート」に薬剤師の入力画面を追加作成した。また、療養者・家族の入力画面に服薬状況を入力する項目を追加し、グラフ表示を可能にした。 電子連絡ノートの実証実験をいくつかの地域で実施した。京都府京丹波町では研究期間中、のべ27名の療養者とその療養者の在宅ケアを担当している医師、看護師、薬剤師、ケアマネージャーに電子連絡ノートを使用してもらった。在宅医療チームに薬剤師が入ったことによって、処方どおりに服薬できていなかった事例、多量の残薬が発見された事例などが明らかになった。また、看護師やケアマネージャーなどが在宅医療における薬剤師の役割を認識する機会となったことから、実証実験後、服薬指導依頼や退院時カンファレンス参加依頼が増加するなどの変化があった。京都市では、在宅緩和ケアの事例に電子連絡ノートを使用した。療養者が関東地方の娘宅に滞在中、カンジダ性口内炎が悪化した際には、療養者と主治医、薬剤師が電子連絡ノートを用いて情報交換することで、遠方での滞在を継続することができた。 電子連絡ノートを通じて、多職種の在宅医療・介護スタッフが療養者、家族と情報共有することで、療養者の活動的な生活を支えること、スタッフの充足感をもたらすこと、入院中も心のつながりが保たれることなどの利点があることが明らかになった。今後は、電子連絡ノートを必要な人々に継続して供給するためのビジネスモデルを構築していく必要があると考える。
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