本研究は,境界性パーソナリティ障害(以下BPD)患者の感情の揺れ動いた体験を明らかにすることを目的とした基礎研究である. 今年度は,前年度までの研究データの分析をもとに,BPD患者を多く治療している研究協力施設の医師と意見交換を実施した.また,BPD患者を中心とした感情調整困難な患者への先駆的な治療を行っている専門家によるワークショップに参加し,対象理解や治療についての理論,治療者及び家族の体験談等に触れ,理論的感受性を高め,得られたデータの継続比較分析を深めていった.分析を深めながら,理論的サンプリングをもとに新たに1名のデータ収集を行った. 分析の結果,【存在意義を疑う心】,【引き寄せられる自己否定的認知】,【自分を圧倒する感情】,【生きるための孤独な闘い】,【自分や他者を愛する心】,【今ある自分を肯定する】,【自分が主体となって生きる】の7カテゴリが見られた. BPD患者に対する先行研究において,他責的な側面や他者や自分への攻撃といった問題行動に注目した捉え方が多く,そういった問題行動は援助者に不全感などの陰性感情を感じさせ,援助が困難となりやすい.本研究では,彼らの行動の背景に,【存在意義を疑う心】や【引き寄せられる自己否定的認知】,【自分を圧倒する感情】があることが示唆された.そして,問題行動と捉えられやすい行動は,彼らにとっては【生きるための孤独な闘い】であり,様々な方法で苦しみに対処していると考える.また,BPD患者の回復について詳しく述べられている先行研究はみられなかったが,【自己や他者を愛する心】,【今ある自分を肯定する】,【自分が主体となって生きる】といった,彼らの力や変化の可能性も示唆された.上記の研究成果を香川大学看護学雑誌に投稿し,掲載することができた.
|