具体的内容:本研究では、日本人への質問紙調査によって、家族内の呼び方(以下、呼称とする)が家族関係を表すことを明らかにした。親を親族呼称(父さん、ママなど)で呼んでいる青年は呼ばない青年に比べて両親と会話を頻繁にしており、情緒的に近づきやすいと報告していた。親子関係の呼称を敬意に基づいて数値化した結果、子どもが父親を敬意の乏しい呼び方で呼べば呼ぶほど、子ども自身の抑うつが高く、拒絶感を感じやすいことが明らかになった。同様の手順で夫婦関係及び家族全般の関係も調査した。その結果、夫婦関係では、夫が妻に対して敬意の乏しい呼び方(おい、お前など)をしているほど、夫から妻への身体的暴力が起こりやすいことが分かった。また、家族内の一部の関係で呼称拒否(呼ぶのを拒否している)が起きている場合、家族全体の葛藤の程度が高いことも判明した。 意義:呼称という単語水準の簡易な言語指標で、個々の家族関係を査定し、かつ、家族全体の関係との関連を明らかにした点に意義がある。言語学の語用論で使用されやすい呼称概念を家族心理学に適用した点に学術的な意義がある。本研究によって、語用論で蓄積されている先行研究と家族心理学に蓄積されている先行研究とが比較、参照可能になっていくだろう。 重要性:配偶者暴力や虐待などの家族内の問題は現代社会の問題であり、問題を未然に防ぐ、予防的介入が必要とされている。予防的介入をする際にはリスク群を想定する必要があるが、家族関係のリスクを簡便に査定する指標は未開発である。家族内呼称は使用者に特定のトレーニングを必要とせず、また、対象者にも負担をほとんどかけないため、家族内呼称が家族関係のリスク査定に生かされる可能性は十分にある。家族内呼称を用いれば、リスク群を簡易に発見しやすくなり、早期介入によって、家族問題を未然に防げることが示唆された。
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