本研究は信頼性の高い黒曜石水和層法を開発し、先史遺跡の高精度編年と古環境推定に貢献することを目的とする。本年度は、黒曜石水和層の観察・計測のためのサンプルの収集および観察方法の習得を行った。北海道の更新世末から完新世前期(後期旧石器および縄文時代)の遺跡より出土した資料よりサンプルの収集を行った。行政法に基づく埋蔵文化財調査によって得られた資料であるため、サンプルの破壊分析を行なうことが可能な資料を選別しなければならず、そのために時間を要した。結果的に、北海道厚真町ヲチャラセナイ遺跡、北海道帯広市暁遺跡(後期旧石器時代・縄文時代)、同市八千代A遺跡(縄文時代)の黒曜石石器から分析サンプルを抽出した。抽出したサンプルの一部について観察用のプレパラートを作成し、水和層の観察を行ったが、水和層および計測法の確定に時間を要した。具体的には、暁遺跡の後期旧石器の石器サンプルについて計測された水和層の厚さは3.2μであり、同一資料について近堂が報告している計測値(4.0μ)よりも薄い結果となった。このことから水和層の観察法を体系化する必要があることを認識し、アメリカ合衆国の水和層研究者であるトム・オリガー氏の指導を得て、適切なプレパラートの作成と観察・計測法を確認した。この作業と並行し、気温の日較差と年較差を考慮したRogersの公式(Rogers 2007)を用いて、効果温度の推定を行った。帯広市暁遺跡における縄文時代の住居1の床面より出土した黒曜石の水和層発達について、遺跡近傍の気象データを利用して推定された効果温度は、8.96℃であった。これは近堂(1988)で利用されている同遺跡の効果温度(8.5℃)とほとんど等しいことがわかった。
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