我々が行うスポーツ動作は、全身をダイナミックかつ協調的に制御することが重要であり、このような動作の学習および制御には中枢神経系の中でも小脳が重要な役割を果たすと考えられている。運動の学習における神経基盤は小脳プルキンエ細胞における長期抑圧であり、この長期抑圧の発現には延髄下オリーブ核を起始とする登上線維系の入力が必要不可欠である。しかしながら、運動学習に重要な登上線維系入力が、運動制御においてどのような役割を有するかは不明である。運動制御における登上線維系入力の特性を理解することは、効率の良い運動学習を実現することにつながると推測される。 本研究課題では、環境や状況に適応的な動作の制御において延髄下オリーブ核-登上線維系入力がどのような役割を果たすかについて調査した。このような動作の制御を神経細胞レベルから理解するため、実験動物に歩行中の障害物回避動作を課した。本研究では下オリーブ核-登上線維系入力の障害物回避動作における役割について検討するため、下オリーブ核-登上線維系を薬理学的に破壊し、破壊前後で比較した。平成25年度において、以下の結果が得られた。 ①Nissl染色の結果、下オリーブ核の破壊が確認された。小脳虫部に投射する尾側の内側副オリーブ核は、比較的影響が少なかった。 ②平面歩行において、下オリーブ核-登上線維系を破壊すると、つま先の過度な拳上とストライドの短縮、遊脚相中の膝関節および足関節の過度な屈曲が観察された。また、破壊後の外側広筋では遊脚相後半の筋活動が観察されなくなり、大腿二頭筋では離地時の筋活動が観察された。破壊後の腓腹筋では、接地相中の筋活動休止時間および遊脚相後半の筋活動時間がそれぞれ延長した。
|