研究概要 |
信号処理は,適応システム同定や機械学習など,幅広い応用を持つ重要な技術である.信号処理の諸問題は,「推定対象と既知のモデル行列の積に加法雑音が加わった観測値」を用いて対象を推定する問題として定式化される.多くの場合,制約付き最適化問題を設計し,その解を推定問題の近似解として採用する指針が活用されている.通常,最適化問題の反復解法はパラメータを有しており,その選択が性能を左右する.その選択基準として「リスク推定量(統計的手法により自然に導出される選択基準)」が有効である. 本年度は,適応システム同定問題に対してリスク推定量を導入し,アルゴリズムの性能向上を実現した.適応システム同定問題においても,各時刻ごとに最適化問題を設計する指針が採用されており,それらの解を追従するアルゴリズムが広く活用されている.最適化問題の設計では,多くの応用先において「推定対象の係数ベクトルがスパース性を持つ」という観察を鑑み,「スパース性を促進する項」を導入する手法が提案されている(例えば,[Murakami et al., IEEE ICASSP 2010]において,大きな性能向上が確認出来る).多くの場合,促進項は「正則化パラメータ(促進の度合いを制御する実数)」を有している.本研究では,[Murakami et al., 2010]で提案されている適応アルゴリズムに対して,正則化パラメータ選択のためのリスク推定量を提案している.具体的には,各時刻において,係数ベクトルの推定値の平均二乗誤差(MSE)を最小にすることを目標に,MSEの不偏推定量を提案している.幸い,この不変推定量が区分的二次関数となるため,効率的最小化が可能であることも明らかにしている.最後に,数値実験において,提案手法が正則化パラメータを適切に選択することを確認している.
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