研究概要 |
本研究の目的は,小学校体育授業における学習集団の形成過程を分析しうる新たな授業研究の方法を開発すること,及び開発した研究方法を用いて小学校体育授業を対象とした事例研究を行うことを通して,新たな体育の学習集団論を構築するための基礎的な知見を得ることであった。本研究課題は、近年体育科教育に期待されている子ども同士の肯定的な人間関係の育成に関して、技術的・戦術的な内容の習得と並行した集団の質的発展を志向する学習集団の形成という視点から、その理論と方法を開発しようとするものである。 平成24年度には、学習集団の形成過程を分析する理論的枠組みについて、文化歴史的活動理論の発展を手がかりに、国内外の文献考査を経て「活動システム」モデルの体育授業への適用を試みた。個人の対象的活動と共同体との複合的な相互関係を分かちがたい分析単位とみなす文化歴史的活動理論「第二世代」のアイディアは、学習集団の形成過程を分析するための理論的枠組みとして有効であることが示唆された。 平成25年度には、前年度に検討した「活動システム」モデルを体育のボール運動系の授業研究に適用し、事例研究を行った。開発した研究方法を用いることにより、教師が集団スポーツに潜む文化的特性に配慮するとともに、子どもたちの間で生起している「内的矛盾」を適切に把握し、それに子どもたちを直面させ、対話を通して集団的に解決していくことが学習集団の形成に肯定的な影響を及ぼすことが解釈された。 これらの成果は学会発表、学術誌への投稿、商業誌への投稿によって公表した。 近年,「言語活動の充実」など集団での学び合いが重要視されるなかで、学習集団の形成に関するこれらの知見は、多くの教師に対して体育授業改善への示唆を与えるものとして意義があったと考える。 今後は子どもの生きる社会文化的文脈の射程を体育授業外にも拡張した事例研究の蓄積が課題である。
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