本研究ではヒトの静止立位時における神経制御メカニズムの解明を目的とし,計測実験および数値シミュレーションの面からヒト静止立位姿勢を解析した.計測実験では,床反力系,モーションキャプチャシステム,無線筋電図を統合的したシステムを用いて健常者の静止立位姿勢を,床反力系と無線筋電図を統合したシステムを用いてパーキンソン病患者の静止立位姿勢を計測した.集められたデータを解析することにより,健常者の静止立位姿勢が大変柔軟な制御によって実現されており,また神経制御戦略がこれまで考えられてきた戦略(例えばUncontrolled Manifold 戦略)などとは異なる可能性が示唆されつつある. 数値シミュレーションを用いた解析では,ヒト静止立位姿勢を足関節と股関節を持つ倒立二重振子でモデル化した.状態空間内に存在する安定多様体に注目した神経制御戦略を実装することにより,姿勢制御のフィードバックループ内に大きな時間遅れが含まれる場合でも,立位姿勢を維持できることを明らかにした.この制御戦略は,我々の研究グループ固有のものである.この制御戦略を基盤としたパラメータスタディにより,股関節の柔軟性が姿勢動揺ダイナミクスおよび Hip-Strategy や Ankle-Strategy に代表される姿勢制御戦略に対して大きな差異を与えることを明らかにした. パーキンソン病患者の姿勢動揺計測実験により得られたデータと健常者の姿勢動揺計測実験により得られたデータを比較することにより,パーキンソン病患者の姿勢制御戦略が健常者の姿勢制御戦略に比べて剛直なものであることが明らかにされつつある.これは,継続的にパーキンソン病患者の姿勢動揺計測実験を行ってきた結果であり,得られた知見は今後有効活用されることが期待できる.
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