本研究は、内包出血モデルラットを用い、麻痺側前肢の集中使用法による神経回路の再編過程の解析を目的として実施された。主な研究ストラテジーとして(1)運動野体部位表現マップの変化、(2)運動野からの軸索投射の変化、を設定して実施した。 (1)運動野体部位マップ表現の解析における結果について以下に記す。解析には皮質内微小電気刺激法を用いて、出血側運動野におけるマッピングを実施した。内包出血後1日後の時点で、出血側運動野の前肢支配領域において皮質内微小電気刺激に反応する領域が観察されなくなり、出血により下行性運動路の傷害が生じたことが示された。その後、数匹の個体で術後10、24日目に運動野尾側において刺激に反応する前肢領域が観察された。しかし、再出現した前肢領域は出血前に比べ比較的狭い範囲に留まった。それに対し、麻痺肢集中使用を実施したラットでは、術後10日目から自然回復群に比してより広範な前肢領域の出現が確認され、術後24日目には更に領域の更なる拡大が認められた。また、運動野の吻側においても前肢領域の再出現を認めた。前肢運動機能の評価では、自然回復群と比べ集中使用群では有意な機能改善が認められた。さらに、再出現した前肢領域にGABA作動薬であるmuscimolを投与して抑制すると、改善した運動機能が低下することが確認されたので、これらの領域が機能回復に貢献していることが明らかになった。 (2)運動野からの軸索投射の変化に関しては、神経トレーサーの注入および組織の染色処理については概ね問題なく実施できた。その結果、出血側運動野から脊髄への投射に関しては殆どが傷害されている事が示された。それに対し、運動野から赤核への投射については比較的保存されており、かつ集中使用群ではその量が増加している事が示唆された。この事から、麻痺肢集中使用による機能回復は赤核を介している可能性が示唆された。
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