研究課題/領域番号 |
24800057
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
阿部 晶子 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 教授 (60250205)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 神経心理学 / 医療・福祉 / リハビリテーション / 半側空間無視 / 実験系心理学 |
研究概要 |
左半側空間無視患者は、左空間にある刺激を意識的に処理することができない。一方で、それらの刺激に対し、意識下では何らかの処理を行っている可能性が指摘されている。本研究の目的は、左半側空間無視患者の意識下の処理がどの程度の深さまでなされているのかを明らかにすることである。この目的を達成するため、研究期間内に、半側空間無視患者を対象としたプライミング実験を実施し、無視側に呈示されたプライム刺激のもつ意味情報が、後続のターゲット刺激の認知に及ぼす影響(プライミング効果)を定量的に示すこととした。 平成24年度は、パソコン上で動作するプライミング実験課題の開発を行った。実験課題には単語完成課題を採用した。単語完成課題は、ターゲット刺激として不完全な単語を提示し、被験者に不完全な部分を補って元の単語を完成するよう求めるものである。ターゲット刺激には、平仮名表記の単語の2文字が欠けたものを用いた。ターゲット刺激の選定にあたっては、ヒントが与えられなければ完成率が低いものに限定した。プライム刺激は、単語完成のヒントを含むものと含まないものの2種類を用意した。実験条件は、ターゲットに先行してパソコンディスプレイに呈示されるプライム刺激が、①右空間にヒントを含む条件、②左空間にヒントを含む条件、③左右空間ともヒントを含まない条件を設定した。プライミング効果は、プライム刺激が先行して呈示されることによる、ターゲット刺激の単語完成率の上昇および反応時間の短縮によって示される。本研究においては、プライム刺激がヒントを含まない条件を基準として、右空間にヒントを含む条件と左空間にヒントを含む条件の単語完成率および反応時間を比較できるようにした。実験課題の開発に続いては、健常者を対象とした予備実験を実施し、プライミング効果を確認した。現在、データの収集・分析とともに、学会発表の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、半側空間無視患者を対象としたプライミング実験において、無視側に呈示されたプライム刺激のもつ意味情報が、後続の標的刺激の認知に及ぼす影響を定量的に示すことを目標とする。この最終目標を達成するにためには、まず、実験プログラムを作成し、健常者を対象として妥当性、信頼性のあるものにした上で、半側空間無視患者を対象とした実験を行う必要がある。本研究の開始にあたっては、初年度は実験プログラムの開発と健常者を対象とした予備的実験によって方法の確立をはかることとした。 平成24年度は、上記計画にもとづいて、プライム刺激をパソコン画面の両側に呈示し、続けてターゲット刺激を画面中央に呈示する単語完成課題を作成した。ターゲット刺激の選定に当たっては、ヒントが呈示されない条件下での完成率が一定のものに限定した。プライム刺激については、単語完成のためのヒントを含むものと含まないものの2種類を用いた。実験条件は、プライム刺激について、①右空間にヒントがある、②左空間にヒントがある、③左右どちらの空間にもヒントがない、の3条件を設定した。本課題の作成において最も重要な点は、プライム刺激の呈示条件がターゲット刺激に対する反応(正答率、反応時間)にもたらす影響を比較できるようにすることである。この比較を行うために、ヒントがない状態でのターゲット刺激の単語の完成率が3条件で等しくなるよう厳密に操作した。実験課題の開発に続いては、健常者を対象とした予備実験を実施し、プライミング効果を定量的に測定できることを確認した。 以上より、初年度の半側空間無視患者を対象とした実験の方法論を確立させるという目標は達成できたと考えている。実験プログラム開発用のソフトウエアの納入時期が代理店の事情により当初予定よりも2か月遅れ、それに伴い計画の一部修正を行う必要が生じたが、ソフトウェア納入後は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、完成させた単語完成課題を用いて、健常者および左半側空間無視患者を対象とした実験を実施する。健常者を対象とした実験によって、課題の妥当性、信頼性を高めた上で、左半側空間無視患者を対象とした実験を行う計画である。 左半側空間無視患者を対象とした実験においては、プライム刺激の呈示条件によるターゲット刺激の単語完成率および単語完成に要する時間の差(プライミング効果の差)を比較する。左半側空間無視患者は、パソコンディスプレイの左空間にあるプライム刺激のヒントの存在に気付かず、それらを意識的に処理することに困難を示すと考えられる。しかし、そのような患者においても、意識下では何らかのヒントを得ている可能性が考えられる。結果の分析は、左空間のプライム刺激がヒントを含む条件と、左右空間のプライム刺激ともヒントを含まない条件の比較が中心となる。患者がプライム刺激のヒントを意識下で捉えているとすれば、左空間にヒントがある条件は、左右空間いずれにもヒントがない条件に比べて、単語完成率が高く、反応時間も短くなるはずである。また、患者が左空間のプライム刺激を音読できない場合でも、単語完成率が高く、反応時間が短いとの仮説を考えている。今後、多数の左半側空間無視患者のデータを集積し、この仮説を検証する計画である。 健常者、半側空間無視患者を対象とした実験とも、平成26年3月までデータ収集を継続して行う。従って、研究成果の取りまとめは平成26年3月末に行うこととするが、途中経過を学会等で発表するための準備も進める計画である。
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