本研究の目的は、左半側空間無視における意識化されない処理について明らかにすることである。この目的を達成するため、平成24年度はパソコンを用いたプライミング実験の課題を完成させた。 平成25年度は、まず、健常者を対象としたプライミング実験を行い、課題の妥当性の検討を行った。実験では、プライム刺激を瞬間呈示することで、刺激の情報量を制限した。その結果、ヒントが十分に認知されない場合にも、ヒントがない場合よりも高い割合で後続刺激に対する反応を促進することが定量的に示された。この予備的検討の結果は、第3回国際医療福祉大学学会学術大会にて発表を行った。 次に、左半側空間無視例を対象としたプライミング実験を行った。実験では、一部の例外を除き、プライム刺激の認知は右側に呈示した場合に比べ、左側に呈示した場合に著しく低いことが確認された。また、呈示側によるプライム刺激の認知の差は、後続のターゲット刺激の正反応率の差をもたらすことが確認された。それと同時に、症例の中には、左側のプライム刺激を認知できなかった場合にも、後続のターゲット刺激に正確に反応できるものがいることも明らかになった。そのような症例の反応は、左側のプライム情報に含まれるヒントを用いることができたことを意味し、左半側空間無視における意識化されない処理を反映している可能性を示唆するものである。他方で、症例の中には、左側のプライム刺激を認知できなかった場合には、後続のターゲット刺激に対して全く反応できないものも存在した。このことから、本研究で作成したプライミング課題でとらえ得る処理は、意識下の処理の中でも、ごく限られた側面であると考えられた。症例を対象とした検討については、第16回脳の臨床研究会にて発表し、第38回日本神経心理学会での発表を予定している。
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