研究課題
平成24年度は、センサおよび無線通信機能を内蔵する調理器具を利用した複数料理の同時調理支援システムのプロトタイプの制作にあたった。第一に複数の調理機器での同時調理に対応する新型の電子基板、シェフの手さばきを計測する検知システム、調理中の映像を撮影し記録するシステムを制作し、小型化した操作パネルの筐体と直感的に操作できるインタフェースをデザインした。これは、システム専用の料理レシピを制作するにあたってシェフとの共同実験を行う際に欠かせないものである。第二に、システムが調理を支援する専用レシピの開発にあたった。料理5品を選定し、温度や手さばきの情報を含むレシピの原形を制作した。オムレツについてはプロの料理人が調理する実験を行った。炒飯、野菜炒め、麻婆豆腐、ステーキについては研究チームにより調理する実験を実施した。調理の様子はセンサやカメラによってデータを記録し、観察とインタビューによる民族誌的調査を加えた。これらにより、当該レシピを本システム専用のレシピとしてシステムに落とし込むために必要なデータを確保した。成果発表としては、平成23年度までの研究成果をまとめた論文が国際会議 "CHI2012" に採択され、米国にて口頭発表およびデモンストレーションを行った。デモンストレーションでは調理システムを利用しながら国内外の研究者十数名に実際に調理をしてもらい、今後の改良にむけ有用な示唆を得ることができた。
3: やや遅れている
平成24年度の当初の研究計画としては、年度末までに、家庭において複数料理の同時調理を支援する機能を備えた調理器具2点および完成版の電子レシピ3品が完成していることを目指した。まず1/8期までに既に保持しているフライパンでシェフの調理を記録するための設備を完成させ、2/8期までにシェフがフライパンを利用して調理する実験を実施するとともに追加の調理器具2点を完成させ、3/8期までに電子レシピ3品のプロトタイプを開発し、4/8期までに反復的なユーザスタディによりデザインを改良しながら最終的システムの基本設計を終え、ここまでのプロトタイプについてまとめた論文を執筆することを目指した。上記の計画のうち、平成24年度は新型の電子基板、動作記録システム、映像記録システム、レシピが動作するコンピュータのプラットフォーム、温度と動作の情報を含むテキスト形式のレシピ5品分の制作までが終了し、複数調理支援システムを構成する各モジュールを完成させることができた。一方で、複数料理を同時調理するための調理器具群の実装と、それらをシェフに使用してもう調理実験と一般の人に使用してもらうユーザスタディまで至ることはできなかった。また制作の遅延に伴いジャーナルの執筆などの成果発表にとりかかることができなかった。当初の計画から遅延している理由としては、新型の電子基板を埋め込むための調理機器のハンドル部の外装設計に時間を要したことが挙げられる。その他のモジュールについてもそれぞれ完成までに予定を上回る時間を要したため、全体の作業に遅延が発生したことがあげられる。また、1/8期に行った国際会議の発表準備に時間を割いたため、平成24年度の開発作業の開始時期自体が遅れたことも影響した。
当初の研究計画の遅延に伴い、完成させる電子レシピの点数を絞り込む他、論文等体外発表の時期を遅らせる。今後の研究では、現在遅延している調理器具2点の設計と制作を5/8期までに終え、平成24年度に完成した各モジュールを埋め込む実装を行う。6/8期においては、完成したシステムをプロの料理人に使用して料理してもらう実験を繰り返しながら、単独で料理できる専用レシピ5種を制作する。7/8期においては、5品のうち数品ずつを同時に調理できるようレシピに改良を加え、それらを一般の人に使用してもらうユーザスタディを行う。8/8期においては、システム全体に改良を加えるとともに、2年間の成果を論文にまとめ国内外の会議での発表を目指し、平成25年度もこれを継続する。料理のプロの感覚と技の学習を支援することにより家庭生活を充実させるという意味での社会への成果還元と、開発における一連のプロセスを民族誌調査と科学的計測が融合した新たな経験デザイン手法として学術的開発理論のひとつに体系づけることを目指す。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 備考 (1件)
Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems
巻: CHI '12 ページ: 129-138
10.1145/2207676.2207695
CHI '12 Extended Abstracts on Human Factors in Computing Systems
巻: CHI EA '12 ページ: 1445-1446
10.1145/2212776.2212478
http://panavi.jp/