本年度は、上肢到達運動中の視覚運動鏡像反転学習を用いた行動学的実験により、脳内過程が運動誤差の修正法則を獲得する機序を解明するための研究をおこなった。被験者は健常成人12名とし、ロボットマニピュランダム(KINARM: BKIN Technology)を用いて、カーソルに視覚運動鏡像反転を与えた状況下での前方正面への到達運動を計二日間おこなった。被験者は運動中の視覚フィードバックの有無により二群に分けられた。また、訓練によるフィードバック制御過程の適応様態を検証するため、訓練前、初日終了時、訓練終了後の三時点において、カーソルを消した状況での突発的なターゲット移動に対する運動中のフィードバック軌道修正の方向を調べた。その結果、運動中の視覚フィードバックの有無にかかわらず、訓練によりターゲット方向と初期運動方向との誤差は減少した。試行間におけるエラーの変化を見ると、興味深いことに、訓練初期では鏡像反転下で通常と同様の運動修正をおこなったことによるエラーの増幅が観察されたが、この現象は訓練後期にかけて減少した(P < 0.05)。一方、訓練後期では訓練前期と比較して、戦略的に鏡像反転に対処したことによりエラーの生じる向きが試行間で反転する確率が増加した(P < 0.05)。フィードバック軌道修正の方向に鏡像反転の影響は見られなかった。以上の実験から、視覚運動鏡像反転環境のように運動学習様式の大幅な変更を必要とする状況においては、認知的な戦略に基づく運動修正が不可欠であり、このような認知的学習は運動終着点の情報のみによってもおこなわれ、フィードバック制御過程の変化とは独立であることが示された
|