生分解性高分子から成る自己支持性ナノシートは、ナノ厚(100 nm以下)ため高柔軟性・高接着性を持つ。このため反応性官能基や接着剤を使用せず物理吸着のみで濡れた皮膚や臓器表面に対して貼付できる。他方、隣接臓器が多く柔らかい肝臓は、出血も多く術後の縫合に困難を極める。従って、肝臓用創傷被覆材には「止血・組織修復」と隣接臓器への「癒着防止」の相反する機能が要求される。本研究では、相反する機能を併せ持つ新規肝臓用創傷被覆材への応用を目指し、層状構造体[A]と自切層構造体[B]から成るナノシート(トカゲ様自切能を有する層状ナノシート)を構築する手法を確立することを目的とした。 層状構造体[A]: シリコン基板上に犠牲膜を塗布した後、ナノシートと水溶性高分子を交互積層させた。剥離後、熱溶断しながら水溶性高分子を溶解除去することで内部に層状構造を有する[A]の作成に成功した。5層から成る[A]の破断圧力は約15 kPaと計測され、1層のナノシート(4.2 kPa)、既に臨床応用されているフィブリンシート(5.3 kPa)の破断圧力を優に超え、且つナノシート特有の高接着性を維持していた。従ってナノシートの特徴を活かしながら、破断強度を向上させることに成功した。 自切層構造体[B]: 上述の方法にてナノシートと水溶性高分子を交互積層させた。熱溶断工程を省略すれば水溶液中で瞬時に分離(自切)する構造であることを実証した。
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