人間が二足で歩く時や走る時に足首を曲げ伸ばし(足関節底背屈)し、最終的に地面を蹴って前へ進む。この動きにはふくらはぎにある下腿三頭筋が主として貢献する。下腿三頭筋の筋腱複合体(TS-MTU)はかかとに停止する。かかとを含む足部はアーチ構造をし、変形する特性がある。こうした構造から、TS-MTUの動態は足部の動きと連動することが予想された。 思春期では、骨の発育に対し筋や腱の発育が後追いとなるため、TS-MTUが引き伸ばされた状態になり、かかとに痛みが生じることが多い。だが、この時期の子どものTS-MTUに関する研究は稀であり、メカニズム解明や方策の検討には基礎的知見の蓄積が必要であった。 また、TS-MTUの動態を定量する上で課題があった。これまでの手法は成人屍体を基にした推定手法であり、成人生体の結果と顕著に異なることが近年指摘されている。そこで、子どもから成人までを対象にTS-MTUの動態を定量できる手法の開発が急務であった。 そこで本研究では、以下の3点に取り組んだ。1)子どもの足部形状、足部の変形とMTU長変化の関係を示すこと、2)子どもから成人までの幅広い年代においてMTU長変化を推定可能な式を作成すること、3)子どもにおける運動中の足部変形とMTU長変化の関係を示すこと。 その結果、次のことが明らかとなった。1)足関節底背屈時の下腿三頭筋の筋腱複合体長変化は、体格差を考量してもなお、成人よりも子どものほうが小さかった。その要因として、子どものほうが成人と比べて足アーチが変形しやすいことが考えられた。2)下腿三頭筋の筋腱複合体長の変化を推定するには、後足部の方位変化と後足部長が重要なパラメータであった。それらを予測変数として推定式を作成し、妥当性も確認された。3)ダイナミックな足関節運動中における、下腿三頭筋の筋腱複合体の動態は成人と子どもで異なった。
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