今日、子供の運動量は減少し、また食生活の欧米化が急速に進み、それに伴う体力の低下、肥満傾向児の増加が懸念されている。慢性的な運動不足や肥満が、現代の主要な健康問題のひとつである小児生活習慣病の引き金になることは周知の事実である。さらに、近年の研究では、肥満の子供は標準体重の子供に比べて学力が低いことが示されている。つまり、標準体重の維持は子供の脳の健康、脳の健全な発達に重要なのかもしれない。しかしながら、子供を対象に肥満度と脳の健康の関係を検討する研究は端緒についたばかりであり、未だ不明な点が多い。本研究では、認知機能の中でも学力と密接に関わると考えられている実行機能に焦点を当て、小児肥満と実行機能の関係を明らかにすることを目的とした。 健康な小学生45名(平均10.5歳)にフランカー課題を行わせ、フランカー課題中の認知パフォーマンス(正反応率と反応時間)と事象関連脳電位のN2成分、P3成分を評価した。その結果、実行機能の要求度が高い課題条件において、BMIが高いほど反応時間が長く、N2振幅が大きく、P3潜時が長かった。これらの結果から、子供の肥満度と実行機能の間にはネガティブな関係がある(肥満度が高いほど実行機能が劣っている)ことが示唆された。 今後は、肥満度と体力の両側面から実行機能との関係を検討する必要があると考えている。現在は、子供の体力と実行機能の関係に関しても分析を進めている。これらを総合的にまとめ、脳の健康という側面から、①食に関する正しい知識と健康的な食習慣を身に付けることの重要性(食育の重要性)、②運動習慣を身に付けることの重要性(体育の重要性)を主張したいと考えている。
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