開口放出機構に関連するタンパク質の動態の解明を目的とし、ラットの聴覚系カリックス型シナプスを標本として実験を行った。シナプスにおける情報伝達を確実に行うためには、シナプス前終末からの開口放出機構が機能していることが重要である。開口放出されたシナプス小胞は再利用する必要があるため、細胞内に再び取り込まれる(エンドサイトーシス)。これまでの研究によってエンドサイトーシスは細胞内へのCa流入によって制御されていることが明らかになっているが、Ca流入部位であるCaチャネルには複数のサブタイプが存在する。そこで、幼若期のラットの聴覚系カリックス型シナプスに存在する3種類のCaチャネル(P/Q型、N型、R型)がそれぞれエンドサイトーシスにどのように寄与しているのかを、電気生理学的手法(膜容量測定法)を用いて調べた。その結果、R型Caチャネルがエンドサイトーシスを制御していること、R型Caチャネルとエンドサイトーシスの制御機構が距離的に近接して存在していること、R型Caチャネルを阻害することによってエンドサイトーシスを阻害すると連続刺激に対する開口放出の追随性が悪くなること、が明らかになった。 また、開口放出機構を光学的手法によって解明するための手法として、シナプス小胞や開口放出関連タンパク質を蛍光標識して可視化することを試みており、細胞が生きた状態でこれらを可視化し、これらの蛍光強度が活動依存的に変化することを検出することに成功した。ラット聴覚系のカリックス型シナプスにおいてシナプス小胞や開口放出関連タンパク質を可視化し、その活動依存的な変化を測定した研究は現時点においては希少であるため、この手法をさらに洗練させることによって、生体内に近い状態でのシナプス小胞や開口放出関連タンパク質の動態を明らかにすることが期待される。
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