研究課題/領域番号 |
24800074
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
高倉 久志 同志社大学, スポーツ健康科学部, 助教 (20631914)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | ミオグロビン / ミトコンドリア / 持久的トレーニング / 骨格筋 / シグナル伝達 |
研究概要 |
近年、持久的トレーニング(eTR)によるミオグロビン(Mb)発現量の増加が筋収縮開始時における筋酸素消費速度の加速に貢献する可能性が示唆された。運動開始時の筋酸素消費速度は筋有酸素性代謝能力を反映する指標であることから、eTRによってミトコンドリアだけでなくMbも効率的に増加させることが筋有酸素性代謝能力の向上にとって必要不可欠であろう。しかしながら、これまでの先行研究ではミトコンドリア生合成を司るペルオキシソーム増殖剤活性化受容体ガンマ共活性化因子1アルファ(PGC-1α)の発現量がMb発現量の増加に関与するか否かについては議論が続けられており、eTR によってMb発現量が増加する分子機序については明らかになっていない。そこで本研究では、eTR期間中のMb発現量の増加がPGC-1α発現量の増加を伴うか否かについて検討した。 被験動物はWistar系雄性ラットとし、対照(Con)群とトレーニング期間を 2, 4, 6週間とする3群(それぞれを2 wk-eTR群、4 wk-eTR群、6 wk-eTR群とする)に分類した。eTRはトレッドミル運動とし、5日/週の頻度で実施した。その結果、4週間以上のeTRによって腓腹筋深層部位におけるMb発現量が増加した。その一方で、腓腹筋深層部位のPGC-1αの発現量は6 wk-eTR群においてやや増加傾向が認められたものの、いずれかの群間においても有意な発現量の違いは認められなかった。 以上のことから、Mb発現量は少なくとも4週間のeTRによって増加することが示された一方で、6週間のeTRによってもPGC-1α発現量の増加を確認することができなかった。したがって、eTRによるMb発現量の増加に対してはPGC-1α発現量は関与していない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は持久的トレーニング(eTR)期間中におけるミオグロビン(Mb)発現量の増加を担う分子メカニズムの解明を行った。これまでの先行研究では、ミトコンドリア生合成を司るペルオキシソーム増殖剤活性化受容体ガンマ共活性化因子1アルファ(PGC-1α)の発現量がMb発現量の増加に関与するかどうかが不明であったため、まずeTR期間中のMb発現量の増加がPGC-1α発現量の増加を伴うか否かについて検討した。その結果、eTRによるMb発現量の増加に対してはPGC-1α発現量は関与していない可能性が示唆された。そのためMb発現量の増加を担うもう一つの有力経路である筋収縮に起因したカルシウムイオンの増加によって惹起されるシグナル経路についても検討する予定であったが、カルシウムイオン依存性情報伝達経路から測定対象とするシグナル分子を絞り込み、予備検討を行うまでにとどまった。 以上のことを勘案すると、eTR期間中のMb発現量の増加を担う分子メカニズムの解明が本年度の主たる研究テーマであったため、研究達成度としてはおおむね順調に伸展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、カルシウムイオン依存性情報伝達経路における代表的なシグナル分子の発現量の変化とミオグロビン(Mb)発現量の変化の関連性について検討する。併せて、持久的トレーニング(eTR)期間中におけるmRNAレベルでの発現量の変化についても検討も行う予定である。 さらに、もう一つの主たるテーマとしてMbの至適発現条件を生体のサーカディアンリズムの観点から検討する。骨格筋や脂肪組織の代謝調節は時計遺伝子とよばれるサーカディアンリズムを決定する分子群によって調節されていることが相次いで報告され、食事や運動のタイミングも重要になることが指摘されつつある。実際にPGC-1αのmRNA発現は時計遺伝子を介したサーカディアンリズムを有することが確認されており、サーカディアンリズムを考慮した運動トレーニングが骨格筋の適応に違いを生じさせるかもしれない。したがって、サーカディアンリズムを考慮した運動トレーニングの実施が、ミトコンドリアタンパク質の発現量やMb発現量に及ぼす影響の違いについて検討する予定である。併せて、そのシグナル伝達を担う代表的なシグナル分子の発現量についても検討する。
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