研究課題
平成24年度の研究実績として、Ptf1a遺伝子発現細胞系譜追跡実験やPtf1aノックアウト動物の解析を行い、これまでに未解明であった視床下部神経細胞の発生機構の一端を明らかにした。さらにPtf1aコンディショナルノックアウトマウスの表現型を解析し、遅発性肥満の発症機序に関して示唆的なデータを得ることができた。以下の (一)(二)について研究を行った。(一)視床下部神経細胞の発生機構Ptf1aノックアウト(KO)およびコンディショナルノックアウト(cKO)を用いて、視床下部においてPtf1aリニエージ(Ptf1aを発現したことのある細胞系譜)にある神経細胞の性質について解析を行った。「KOマウスの視床下部では細胞死が亢進する」ことから、Ptf1a遺伝子が視床下部神経細胞の生存に必要であることが示唆された。また、「cKOマウスでは視床下部のサイズが縮小する」ことからPtf1a遺伝子が視床下部の正常な発生に必要であることがわかった。しかしながら、Ptf1aの欠失によりそのリニエージ細胞において「別種細胞への運命転換」が起きているのかどうか未だに不明であるため、今後はPtf1aリニエージにおいて各種神経細胞マーカーを用いた多重免疫組織化学染色法を用いるなどして明らかにしていきたい。(二)遅発性肥満の発症機構Ptf1a cKOマウスは遅発性肥満を発症するが、その体重増加の原因について、「食欲の亢進」および「代謝(エネルギー消費)の低下」の2つの可能性について調べた。前者についてはcKOマウスの餌の摂食量をコントロール群と比較した。その結果、予想に反して雄、雌ともに摂食量に有意な差がみられなかった。このことから、肥満発症の原因としてエネルギー消費の低下が示唆された。後者については未だ確たるデータは得られていないが、体温変化や活動量、酸素消費量などを詳細に解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
現時点においては当初の研究計画に沿って進行している。
平成25年度の研究の推進方策を以下に示す。A) まず体温変化や活動量、酸素消費量などの解析を行う。これにより代謝低下が明らかとなった場合、その代謝低下が起きる原因となる可能性について、これまでに知られている肥満の発症機構(弓状核のPOMC神経細胞・NPY神経細胞における変化、下垂体ホルモンの変化など)との関連について調べる。すなわち、血中の各種ホルモン量や弓状核、その他視床下部神経核におけるPtf1aリニエージにある神経細胞の性質の変化などについて解析を行う。B) Ptf1a cKOマウスにおいては視床下部サイズが縮小する。この表現型について、Ptf1aが欠失したことによる細胞内因性のアポトーシスが原因であることを示唆するデータが得られた。そこで、Ptf1aリニエージ細胞の欠失が肥満を招来しうるのかについて、これらの神経細胞について回路形成(投射様式)がどうなっているか、電気生理学的性質はどのようなものかなどについて解析する。さらには薬理学的手法を用いて急性にPtf1aリニエージ細胞を除く実験を行い、その場合の成体マウスの表現型について調べる。加えて、Ptf1aリニエージ特異的にチャネルロドプシンを発現させ、光刺激を行った際の個体の行動の変化をみることで、Ptf1aリニエージ細胞の生体内で果たしている機能について明らかにしていきたいと考えている。
すべて 2013 2012
すべて 学会発表 (4件)