研究課題/領域番号 |
24800089
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
舞草 伯秀 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 脳病態統合イメージングセンター, 研究員 (80631069)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | MRI / アルツハイマー病 / 歪み補正 |
研究概要 |
被験者のMRI撮像の直後に取得するPhantom画像の基準点誤差から歪み場を推定し、それを基に画像変形を行うことによってMRI画像の補正を行う方法を考案し、その有効性をPhantom実験ならびにVoxel-Based-Morphometryによる脳画像計測の再現性が向上することを示した。この成果は国際学会誌であるMedical Physics誌に投稿し掲載が決定した。また歪み補正前後の脳画像をTensol-Based-Morphometry法によって空間座標毎の容積変化率を求め、アルツハイマー病の進行動態と密接に関係するとされている海馬や嗅内皮質などの解剖学的関心領域内の歪みによる影響を計測した。結果、海馬領域の容積変化率の中央値は8.02 %であり嗅内皮質内は8.91 %であった。アルツハイマー病における年間の海馬の委縮率はおおよそ5%程度であるとされているため、本手法による補正が海馬の委縮を評価するうえで重要であることが示される。 装置メンテナンス等による歪みへの影響については、受信コイルのアップグレードや交換、RFパルスの調整、Heの充填などを行った前後とそれ以外の作業を行った場合のファントム基準点誤差を比較したところ、これらのメンテナンスを行った場合、有意に基準点誤差が変動していた。このことから、これらメンテナンスを行った直後にはファントム撮像を行い画像の歪みを補正する必要があることが示唆された。 一方、歪み補正後の画像に対してFischlらの開発した自動関心領域分割ソフトウェア"FreeSurfer"によって得られた海馬および嗅内皮質の容積などを入力とし、決定木による機械学習法によって、アルツハイマー病の発症予測を行ったが有用な結果が得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りファントムを用いた歪み補正法の開発を行い、その有効性を検証した。また検証結果を国際論文誌に投稿し採択された。また補正前後の脳画像の容積変化率を計測することにより、MRIの幾何学歪みが脳画像解析へ与える影響を調査した。この成果は2013年7月に米国ボストンで開催されるAlzheimer's Neuroscience Conference | Alzheimer's Associationで発表予定である。これらの実施状況と得られた成果から、MRI空間歪みの補正とそのアルツハイマー病画像解析への影響調査は順調に進展したと評価できるものと考える。 一方でアルツハイマー病の発症予測に関しては本年度中は十分な成果が得られなかった。しかしながら、発症予測の実施自体は行ったため、全体としておおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果として、FreeSurferを用いた海馬と嗅内皮質の容積解析からアルツハイマー病の決定木を用いた発症予測では十分な精度が得られないことが示された。FreeSurferで抽出した海馬領域と用手的に専門家が抽出した領域の空間的一致係数:Dice Coefficientがせいぜい60%程度にしか達しない場合があると文献で報告されている。すなわち、FreeSurferの関心領域の抽出精度が十分でないため、アルツハイマー病の発症予測に悪影響を与えているものと考えられる。そこで来年度は臨床画像において解剖学的な関心領域抽出に高い精度を示すとして近年注目されている、Multi-Label-Fusion法を適応した海馬抽出の新手法の開発を試みる。これは事前に用手的に抽出した多数の解剖学的領域内の画像特徴量を教師データとし、これから抽出しようとするMRI画像の局所的な特徴量と教師データの類似度を重みとして多数決投票を行うことによって、関心領域か否かを判別するものである。91例のOne Leave Out法によってそれぞれの海馬領域を抽出し、同一作業者によって抽出した海馬関心領域との空間的一致度から提案手法を評価する。 開発した手法による海馬領域の容積を入力として機械学習を行い、アルツハイマー病の発症予測の精度改善を目指す。
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