がんの発生・進展過程における免疫系の役割を解明するため、2つの研究目的に取り組んだ。 「研究目的1:JNK-mTORC1経路による腫瘍形成における自然免疫の関与」ApcΔ716変異マウスの腸に形成される腫瘍では、腸上皮細胞においてJNK-mTORC1経路が活性化している。野生型マウスの腸上皮細胞およびApc変異マウスの腫瘍から得た初代培養細胞におけるJNK-mTORC1経路の活性化状態を調べたところ、いずれにおいても活性化はみられなかった。初代培養細胞をJNK活性化因子で処理したところ、JNKおよびmTORC1経路の活性化がみられた。このことから、腫瘍におけるJNK-mTORC1経路の活性化は細胞自律的なものではなく、細胞外因子によるものと考えられる。マイクロアレイ解析の結果から、Apc変異マウスの腫瘍では炎症性サイトカインの発現が増加しており、活性化因子の候補として挙げられる。また、この活性化に自然免疫が関与するか調べるため、MyD88flox/flox ApcΔ716 Villin-Cre変異マウスを作出し、解析を進めている。 「研究目的2:cis-APCΔ716/Smad4変異マウスを用いたがんの浸潤・転移における免疫系の役割の解析」腸には免疫細胞が多く存在しており、腸内細菌叢の状態が免疫機能に影響を及ぼすことが明らかになってきている。そこで、局所浸潤能を持った腺がんを発症するcis-Apc/Smad4変異マウスの腸内細菌を除去することで浸潤過程に変化がみられるか調べるため、昨年度は抗生剤投与の条件検討を行った。今年度は本実験を始め、これまでに腸内細菌除去が大腸における腫瘍形成に影響を及ぼすことを示唆する結果を得た。 今後のさらなる解析により、腫瘍形成や浸潤における自然免疫の関与の一端が明らかにされると期待される。
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