研究課題/領域番号 |
24800094
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研究機関 | 九州歴史資料館 |
研究代表者 |
小林 啓 九州歴史資料館, その他部局等, 研究員 (20638457)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | X線CTスキャナ / 出土木製品 / 保存処理 / トレハロース |
研究概要 |
本研究は、出土木製品の保存処理における薬剤の含浸状況や処理中・処理後の状態変化についてX線CTスキャナにより解析することを目的としている。X線CTスキャナの活用により、従来は困難とされていた出土木製品の保存処理中・処理後の内部状態について、非破壊且つ3次元的な可視化が期待されるためである。 研究初年度となる平成24年度は、上記目的達成のため、処理薬剤の濃度差による状態変化についてX線CTスキャナにより調査を行った。なお、処理薬剤は出土木製品の保存処理として広く普及しているトレハロースを使用した。 まず、水溶液中の薬剤分布を確認するため、0%(蒸留水)、トレハロース20%・40%・60%水溶液、トレハロース粉末(結晶)を作成し、X線CTスキャナでそれぞれ状態を確認した。トレハロース20%・40%水溶液は、水によるX線散乱の影響が強く、濃度差による明確な差異はみられない。一方、トレハロース60%水溶液はX線の吸収が高いためか、他の水溶液と比べわずかながら色調の差異が確認できた。この他、トレハロース粉末(結晶)は、水によるX線散乱の影響が殆どないことから、他の水溶液と比較して色調に明瞭な差異が確認できた。 次に、サンプル材(遺跡出土木材、3×3×1.5㎝、樹種:ケヤキ)に薬剤(トレハロース70%)を含浸して内部をX線CTスキャナで確認した。薬剤の含浸期間は16時間から12週間、含浸後のサンプル材は重量が恒量に達することを確認、十分な結晶化を行った。X線CTスキャナによる調査の結果、サンプル材は含浸期間に比例して内部にX線吸収の高い箇所が広がっている様子が確認された。16時間含浸では表面と導管要素付近に集中するが、1週間含浸以降はサンプル材内部と木繊維にまで範囲が拡大している様子が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、出土木製品の保存処理における薬剤の含浸状況や処理中・処理後の状態変化についてX線CTスキャナにより解析することを目的としている。研究初年度となる平成24年度は、上記目的達成のため、濃度の異なる薬剤水溶液と遺跡出土木材によるサンプル資料を作成して、処理薬剤(トレハロース)の濃度の違いによる出土木製品の状態変化についてX線CTスキャナにより調査を行った。 出土木製品の保存処理は、処理前・処理中・処理後の3段階に区分できる。このうち、平成24年度年度の研究では、薬剤水溶液とサンプル資料により処理前と処理後の状態を把握することを目的とした。薬剤水溶液では処理前の状態、サンプル資料では処理後の状態をそれぞれ対象としている。これら平成24年度に実施した内容により、研究全体の50%程度が達成されたものと考えている。研究概要は前述のとおりであるが、具体的な内容として、出土木製品の保存処理前と処理後において処理薬剤(トレハロース)の濃度差による状態変化について良好な成果が得られた。特に、サンプル資料による保存処理後の状態においては、トレハロースの濃度差により出土木製品の内部に明確な差異が生じることが確認された。一方、処理前の状態については、水によるX線の散乱が著しく明瞭な変化を確認するに至っておらず、この点については課題となる。この課題の解決には、X線CTスキャナによる視覚的な画像解析に加え、X線吸収係数により出土木製品の状態変化を明確にしていく必要がある。なお、研究最終年度となる平成25年度は出土木製品の処理中の状態について研究を実施することで当初研究目的を達成できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度となる平成25年度は、出土木材の保存処理中における処理薬剤(トレハロース)の含浸状況や状態変化についてX線CTスキャナによる調査を行う。研究の具体的な推進方策として、遺跡出土木材によるサンプル資料を作成してトレハロース含浸処理を施し、保存処理の各工程においてサンプル資料をX線CTスキャナにより解析する。 サンプル資料の保存処理は、トレハロース水溶液20%から処理を開始して、30%・40%・50%・60%・70%と段階的に濃度を上昇させる。現在、出土木製品の保存処理として実施されている手法と同様の工程とする。各濃度における含浸期間は10日間から2週間とし、全含浸期間は3ヶ月以内とする。含浸中はサンプル資料の重量測定を行い、重量が恒量となるまで含浸させる。なお、薬剤含浸が70%まで終了したサンプル資料は、処理薬剤から取り出し送風機により風乾させる。送風機による強制的な乾燥環境を作り出すことで、サンプル資料内部の処理薬剤(トレハロース)を速やかに結晶化させる。 X線CTスキャナによるサンプル資料の解析では、平成24年度の研究成果により、処理中のサンプル資料は水によるX線散乱の影響により、個々の状態の差異を確認することが困難となることが予想される。これに対する方策として、X線CTスキャナの解析時に得られるX吸収係数により各資料の状態の差異を明確化する。また、X線CTスキャナの解析時には、処理中のサンプル資料と標準資料(未処理のサンプル資料)を同時に解析することで処理前と処理中の状態を比較する。
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