平成25年度は、出土木製品の保存処理における薬剤の含浸状況や処理中・処理後の状態変化の解析を目的に研究を実施した。特に従来は困難とされていた出土木製品の保存処理中・処理後の内部状態について、X線CTスキャナによる非破壊で3次元的な可視化を研究の主眼とした。上記した研究目的を達成するため、①水溶液中の薬剤(トレハロース水溶液)、②出土木材サンプル、③保存処理後の出土木製品を対象にX線CTスキャナによる解析を実施した。 水溶液中の薬剤は、0%(蒸留水)、トレハロース20・40・60%水溶液、トレハロース粉末を作成した。トレハロース20・40%水溶液は、水分によるX線散乱の影響が強く、濃度差による明確な差異はみられない。一方、トレハロース60%水溶液はX線の吸収が高いためか、他の水溶液と比べわずかながら差異が確認できた。 サンプル材(3×3×1.5㎝ 樹種:ケヤキ)は、薬剤(トレハロース70%)を含浸して内部をX線CTスキャナで確認した。薬剤の含浸期間は16時間から12週間、含浸後のサンプル材は重量が恒量に達することを確認、十分な結晶化を行った。調査の結果、サンプル材は含浸期間に比例して内部にX線吸収の高い箇所が広がっている様子が確認された。16時間含浸では表面と導管要素付近に集中するが、1週間含浸以降はサンプル材内部と木繊維にまで範囲が拡大している様子が確認できた。 保存処理後の出土木製品は、遺跡出土木製品(含水率560% 樹種:スギ)に保存処理(トレハロース含浸処理法 含浸工程:30%→50%→70%)を行った。処理後の木製品は、サンプル材と同様にX線吸収の高い箇所が確認された。処理後の木製品は、サンプル材とは異なり表面と内部に顕著な差異は確認されず、薬剤含浸が深部にまで達していることが確認された。また、X線吸収の高い箇所は、木製品の放射方向に筋状に広がる様子が確認された。
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